時刻が分からないまま
最近はどこの交通機関もHP等でデータを提供して、乗客の利用の利便を図ることが多くなった。使用する人が見るというのとは別に、利用する人のお知り合いの人が代わりに調べておくということもあるわけである。もちろん鉄道等は時刻表が公刊されておりまあ困ることはないのだが、これがバスだと、本当に「いったら代わっていて」困った事例が過去あった。
もっとも鉄道のオールドファンに聞くと、このような事例は過去よくあったらしい。たとえば北海道によくあった簡易軌道はいってみたら運休とか、2日に1本になっていたとかこういうことはそう珍しいものではなかったようだ。たとえば士別軌道線(士別 - 奥士別11.9キロ 1920~59)などは、研究者の青木栄一が1954年に訪問した際に、時刻表に「バス併用」と注記されているとおり殆ど客車運行はなく、会社から「乗客は事実上扱っていない」と言われている。(1955年度をもって旅客は完全にバスへ移行された。)という記載がある。(参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%AB%E5%88%A5%E8%BB%8C%E9%81%9310年ほど前の中国奥地の鉄道路線探訪とそう変わらない事情が現実的にあったようである。また時刻表への訂正が遅れたために、切符を手配しいってみたらバスの時刻が(天災などではなく)全然変わっていたということは時々あった。これこそが現地調査の醍醐味だが、まあ、このような状況では存在自体の埋没となるのが、競合交通機関(自動車を含む)のある現在ではダメージにつながりかねない。
一般のバス路線はバス会社のHPがあれば、まず大概は時刻が書いてある。(もちろん全部のバス停の時刻が書いてあると言うことではない)また、その見方もばらばらで難しいということもあるが、まあある程度はわかるというものである。中には閑散路線は一部省略している事例もないわけではないが、そういう場合は大概「電話でお問い合わせください」となっているようなものである。
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ところが、地方でバスが廃止となり、市町村がバスの運行に関わる事例が増加してきた昨今、その地域のバス路線がどのように運行されているかわからないということがでてきている。そのような場合はむしろバス会社でなく、その地域の自治体のHPに時刻が掲載されている。更に、タクシー会社や地域の輸送業・果ては自動車修理業や自動車学校等が営業をしている路線の中には、HPもないため連絡がつかないという事例も時々みかける。
1路線のみの、HPさえも作る資力がない小規模会社・第三セクターがたくさんできたため、時刻改正などの全体がつかめなくなった状況は中国地方・九州地方などで多く見られる。このような路線ごく一部の例外を除き、大概地域内輸送など大規模のものではないが、たまに廃止した路線の時刻が、関係した地方自治体のHPに残っていたりして混乱を招くことさえある。
国内でも、そこそこの規模をもっているのにHPに時刻表がないバス会社というのはいくつかある。独立系の金剛自動車(大阪府富田林市)は団地輸送や観光輸送を主に行っている事業者だが、なぜか時刻がまとまって記載されていない。(なお単発的に、変更した時に時刻が出ている事がある)まあ経営の問題はあるんだろうが、末端部に千早赤坂村営ロープウエーの路線がある路線があるのだがらそのままでいいかという疑念はある(なおロープウエーの運営側のHPにはすこし時刻がのっている)
また祐徳バスでは親会社のHPしかないが、こちらは他の企業がやっている路線時刻サービスに親会社のHPからリンクさせていることで、処理している。(九州はそこそこの規模のバス会社でも類似の手法をとっている場合がある。)
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類似している事例であるが、矢板駅から出ているバス会社にしおや交通という会社がある。ここもHPは持っていないのだが、一応沿線の塩谷町のHPに時刻は載っている。
ただこの路線はかなりいわくがある。
栃木県矢板市と日光市を結ぶある「藤田合同タクシー」の路線バスが急きょ運休し、高校生らの通学に大きな影響を与えた。この地区は高校の統合などもあり、矢板地区に公立高校2校・私立高校1校が集中している。学生が通学できず家の都合で車の送迎もできずとういう問題が起きたのである。関係自治体は対応を協議し、同じ路線の認可を持つ別のバス会社(これがしおや交通)に運行を要請して協力を取り付け、急きょ事態は解消したが今後も運行を継続するためには自治体側の負担も必要とのこと。(というか、なぜか他の近隣のバス会社は観光バス会社も含め緊急輸送にも応じていない。)なお、公立高校の1校は町から離れていて、駅からの輸送もこのバス会社が担っていた。なお、タクシー会社として「藤田合同タクシー」は今も盛業中である。
バスを運行していたのは矢板市に本社がある「藤田合同タクシー」で平成14年に認可を受け、路線バスの運行に参入。ルートは、JR矢板駅から塩谷町を経由して東武鬼怒川線新高徳駅までの約26キロで、矢板市内の高校に通学する生徒ら約50人が利用していたが、5月21日、前日まで運行していたバスが停留所に掲示された「運休」の張り紙一枚で運行を休止した。
道路運輸法では事業廃止は半年前の届け出が必要だが、同社は運休前日の20日に国土交通省関東運輸局栃木陸運支局に届け出た。同社社長は、父親の前社長が4月に亡くなり(注:交通事故で急逝)、経営を引き継いだが社長は「親父がこれまでボランティアで運行してきたようなもの。運行すればするほど赤字で、バスの燃料代や運転手の給料も出ない。法律は知っているが、どうにもならなかった」と説明。
塩谷町と矢板市を結ぶルートは生活路線だが、利用者は少なく、その昔東武鉄道の路線があったことから 東武バスや東野交通・関東自動車も運行受託していたこともあったが、結局は撤退した。上記「藤田合同タクシー」は規制緩和で免許制から許可制になったことを受け、塩谷町のバス会社(これがしおや交通)とともに新規参入した経緯がある。
その後この2社が法廷闘争になった。
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藤田合同タクシー有限会社(原告・被控訴人)と、しおや交通株式会社(被告・控訴人)は、途中経路は異なるものの、矢板駅~矢板高校間において路線バスの運行をおこなっている。しおや交通は、この区間で路線バスの無償運行を行ったので藤田合同タクシーが、独禁法24条を根拠に、しおや交通による無償運行を不当廉売として禁止する差止命令を請求した。1審判決は差し止めの請求を認めたが(宇都宮地大田原支判平成23年11月8日(平成23年(ワ)第88号)〔矢板無料バス〕),2審判決は1審判決を取り消して請求棄却の自判をした(東京高判平成24年4月17日(平成23年(ネ)第8418号)〔矢板無料バス〕)。上告等なく確定。
(矢板無料バス事件 東京大学大学院法学政治学研究科 白石忠志教授の記載)
なお第1審の理由は、口頭弁論でしおや交通の代表者が「現段階では無料運行の再開は考えていないが、将来的に無料運行を再開し、お客が増加したら有料にするということを考えている」と発言したらしく、1審2審判決ともに言及がある。1審判決は「少なくとも被告に独占禁止法で規制されている事項を遵守する意思が欠落していることは明らか」で、差し止めに至ったようである。(2審はこの発言を示しながらも、将来において永続的に行われるという可能性はないということで差し止めを取り消した)但し競合の際に藤田合同タクシーも対抗上廉売(無料ではない)とするようなこともあったようだ。

その後、しおや交通はしばらくは運行していたが、当該区間を運行するバス運行の一部を休止扱とした。これは、やはり駅からの学生輸送を路線免許でやっていた別の公立高校(下記 塩谷高校)が統合で閉校しており、両社とも収入源を減らしていることもあったと考える。
結構泥臭い事情があったのだろう。この話を聞いた限りではどっちもどっちというところもある。しおや交通との競合をやめることで補助金を出すといった働きかけもあったようだが、どだい相容れなかったようであるし、競合関係は県内の別の地域でもしおや交通とで起こって問題になったことがある。ただ、この路線では輸送が近隣の高校(しかも塩谷町の高校が矢板市の高校に統合した経緯もある)への占有率の高い通学ルートとなっていたのが、根本的問題である。更に運行当時は両社とも公式サイトもなく、塩谷町役場サイトでも時刻・運賃などが公式では全く公開されていなかった(連絡先のみ)ということもある。というわけで塩谷町のサイトの記載はあるが、実は重要なのは区間運転という側面もある。
先日、矢板に行くことがあり、バス時刻を見てみた。
たしかに、この時刻表を見ると、通学に特化した輸送となっているし、その需要しかこの地域にはないようである。だがらといって、矢板市には市営バス(道路運送法78条典拠)があるが、駅から学校までの輸送は道路運送法78条典拠になる福祉的なものではなくこれには合致しない。
なお、この時刻に「塩谷高校」という行き先があるが、閉校になった行き先が残っているのは変である。これは地域の通学輸送と入出庫の絡みと聞くが、私が見たときも乗客は乗っていなかった。(まあ7月だからおかしくはない)
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この競合は、貧すれば窮すという感じもあるのだが、業務遂行能力(これは資本面という意味。倫理面はこの場面ではあえて触れない)の低い企業しかこのような交通事業を引き受けないほどひっ迫しているという現実がある。もともと鉄道があったということもあるのだが、いろんなバス会社に引き受けをお願いしてもうまくいかないし、いろんなバス会社の運行境界にこの路線があるという前段の事実ということを考えると、学校統合等の前後条件にこの議論が出なかったというのは多少の瑕疵は相互にあるのだろうと思う。、
だとしても、矢板市にしても塩谷町にしてもHPに時刻を記載するという補助的手法もあっていいはずである。実際は現在は一部は塩谷町のHPには載っているのだが、これが休日運休などの記載が全くないわけで使えないのである。たしかに、誰のために運行しているかということはあるのだが、これでは地域住民に対しても訴求できなくなるし、また、すこしでも路線を記載しておけば、運賃収入が得られ補助金(運行補助)の縮減につながる側面があるが、矢板市のHPに載せるのは撤退させられた事業者が市内の事業者ということもあって、乗せられない等あるかもしれない。
少なくとも地域内ではなく地域間輸送に対しては、何らかの広報資料を公開することが必要であると私は考える。もっとも漏れていたのは地域内輸送領域ではあるのだが、HP掲載だけでもしていくことで、地域間交通の存在感が埋没することを防げると考えるのである。
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