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精神と時の部屋でサバイバルする私たち

世の中にはフリーランスで働く人は多いし、事実私もそのような時期もあった(今も半分はそうである)が、それを遊牧民と称して「レッテル張り」して自ら売るという手法が、結構あるわけだ。そして事務所を持たない、遊牧民的(どこでも働ける)スタイルを売りにする一例として、ここであげる安藤美冬女史も其の代表格で、あちこちで取り上げられた方である。
そしてフリーランスというのは守るものが自分だけという側面は、其のビジネスモデルによってはきわめて重要な「ステータス」「価値」でもあるので、彼女も前例どおり結構同業者からいろいろな批判を受けてるようである。そんな泥団子の投げ合いに組する気持ちはさらさらないのだが、あるBLOGを見て、お茶を吹いた。そしておもむろにに修辞論としてみて、いささか複雑な気持ちになった。
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http://d.hatena.ne.jp/hagex/20130108/p12
2013年01月08日(Tue)  ■[Web] 安藤美冬のサバイバルキットで生き抜きます

山■パン高井戸工場あんぱん班班長として、毎日毎日、あんぱんの上にケシの実を付ける作業をこなし、夜勤明けに薄汚い東池袋のアパートに戻ってきて、合成酒「鬼殺し」(4リットル580円(税込み))を汚れたガラスコップで飲み、薄くなった頭を両手でパチパチ叩きながら「俺の将来どうなるんだろう… 勤務時間短縮を言い渡されたけど、リストラ?」と、呟きながら天井を見上げる日々。オケラ荘の天井を元気よく駆け抜けるネズミが唯一の友だちだ(気分は小公女セーラ)。
隣に住んでいるリーさん夫妻(ともに50代)は午前中にも関わらず、獣ようなよがり声をあげながらセックスをしいる。あ、ついつい右手が股間に……
憂鬱・憂鬱・憂鬱・あんぱん・不安・不安・不安・あんぱん・死・死・死
「働けば自由になる」と言うが、いったい何から自由になったのだろう? 希望がないと人間は生きていけない。
ああ、オレは死ぬしかないのか。でも自殺は怖いし、巣鴨のピンサロ5000円割引券まだ使ってないからもったいないし……

と絶望していた俺が見つけたのは「安藤美冬のサバイバルキット」だ。
「この世を楽しくサバイブするための武器と防具を授けたい」というコンセプトで、月5000円支払うことで、あの安藤美冬氏から素敵なプレゼントが届くという。これだ、これを購入すれば、安藤美冬や高城剛、ノマドワーカー禿田禿蔵みたいに人から注目されて高収入、白いベンツにドンペリニヨーンなライフスタイルが実現するかもしれない。
薄汚い東池袋パンドラ荘にも希望がやってくるのだ!
手取り12万8000円の俺に、月5000円はちょっと痛いが希望を手に入れるためなら……
参考
ノマドワーカー禿田禿蔵(前編)
ノマドワーカー禿田禿蔵(後編)(←ネット史上最高のはてブ数&RT数を獲得しているエントリーだよ)
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ノマドワーカーとして有名な安藤美冬氏が、新しいビジネスを始めたようだ。それが「安藤美冬のサバイバルキット」だ(ばばーーん)。(後略)
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さて、このあとだれがサバイバルキットの人身御供になるかという話になっているのだが、そこには私は関わらないでおこう。

元ネタはなにかというと1300年も精神と時の部屋・・・いや「万葉集」に閉じ込められた、山上憶良の晩年(771~773年・73歳ごろの作品)の社会派著作にいきつくのである。彼は仏教や儒教の思想に傾倒しており、官人だが当時の歌人には珍しく、重税に喘ぐ農民や防人(辺境防衛)となって徴用される夫を見守る妻など社会的弱者を鋭く観察した歌がある。

貧窮問答の歌」万葉集巻五(892)
ー貧窮問答の歌一首、また短歌(・・・短歌は省略します
(甲)風雑り 雨降る夜の 雨雑り 雪降る夜は
  すべもなく 寒くしあれば 堅塩を 取りつづしろひ
  糟湯酒 うち啜ろひて 咳かひ 鼻びしびしに
  しかとあらぬ 髭掻き撫でて 吾をおきて 人はあらじと
  誇ろへど 寒くしあれば 麻衾 引き被り
  布肩衣 ありのことごと 着襲へども 寒き夜すらを
  我よりも 貧しき人の 父母は 飢ゑ寒からむ
  妻子どもは 乞ひて泣くらむ 
  この時は いかにしつつか 汝が世は渡る
(乙)天地は 広しといへど 吾が為は 狭くやなりぬる
  日月は 明しといへど 吾が為は 照りやたまはぬ
  人皆か 吾のみやしかる わくらばに 人とはあるを
  人並に 吾も作るを 綿も無き 布肩衣の
  海松のごと 乱け垂れる かかふのみ 肩に打ち掛け
  伏廬の 曲廬の内に 直土に 藁解き敷きて
  父母は 枕の方に 妻子どもは 足の方に
  囲み居て 憂へ吟ひ 竈には 火気吹き立てず
  甑には 蜘蛛の巣かきて 飯炊く ことも忘れて
  ぬえ鳥の のどよび居るに いとのきて 短き物を
  端切ると 云へるが如く 笞杖執る 里長が声は
  寝屋処まで 来立ち呼ばひぬ 
  かくばかり すべなきものか 世間の道

さて、これをなんとなくわかりやすくするとこうなるんではないか。平文にしてみると・・・
(甲)風まじりの雨に雪も降る夜 とんでもなく寒い
 盛塩をなめ、濁酒を湯で解いたものなど適当にのんで、咳・鼻水をずるずるすする。
 薄い髭を撫でながら、自分はすごいんだぞと自惚れてるけど
 その実、やっぱり寒いから、安い寝具を被って薄地の服を重ね着してる。けどまだ寒い。
 こんな寒い夜は、貧しい人の親は飢えてこごえ、その妻子は力のない声で泣くのだろう。
 こんなときどうやってお前は生活するのかよ。
(乙)よく太陽や月は明るく照り輝き恩恵を与えるとか聞くが、私には照らないのか。
 他の人も皆そうか、それとも私だけか。
 まあ、人間として生まれ、人並みに働いているんだけど、
 安物の半そで、しかも裂けてぼろぼろなものを羽織って、低く、しかも曲がって傾いた家で、藁を敷いて、
 父母は枕の方に、妻子は足の方にと家族は集まって寝ているんだ。
 しかもかぼそい力のない声で悲しんだりうめいたりしてる。
 ガスは止まってるし、炊飯器は蜘蛛の巣がはって炊飯もしていないのが明らかだ。
 こんなときに、税務署の幹部職員がまたきて戸をたたいているのがわかる。
 生きって、つらいなあ。身も痩せるように耐え難く思うし、生きってつらい。
 けれども、鳥ではないから飛んで行くこともできない。

このように、同じように話をしたくても仮託したりしていることがあるのだろう。ここでは濁酒と書いたが酒かすを湯で溶いたもので今で言えば薄い甘酒みたいなものだろう。
そして上述のBLOGのも
◎ 山■パン高井戸工場・・・:鳥肌実の演説芸のネタ・高井戸工場は実際には存在しない。
◎・・・あんぱんの上にケシの実を付ける作業:単純作業で先行きのない仕事。類似表現も多い。
◎合成酒「鬼殺し」(4リットル580円(税込み)):安酒という意味ですね。(けどこんな値段の酒?)
◎「働けば自由になる」:ナチス政権がこの語を強制収容所の門にこの文言を記した。奴隷労働を暗示
と見ると、まさに本歌取りの呈を示している。
ただし、当然元歌は社会体制というものが最後に追い討ちをかけるかたちで働くこと自体がまったく実利に反映されない話なのだが、BLOGのほうは社会体制の中に組み込まれている中の話で付加価値の薄い労働。当然貧困の質もまったく違う。

しかし、貧困のなかでの本質はひとつ貫かれている。つまり「先がまったく読めず、一般的な類推ではマイナーな発想しか出てこない」心理的貧困が先にあり、それが全部の行動に直接間接に波及しているということである。結果的に1200年たっても形が少し変わるだけで先の読めない現状を憂うしかできないという凡人には、まったく代わらない心象風景が続くということ、ただそれだけなのである。
なんとなくこの歌を思い出してしまった。

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