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嗚呼 世に技術者倫理の種はつきまじ

----------引用(一部匿名)
JR西、組織的に委員に接触=東京副本部長も事故調元部会長に-福知山線事故 9月27日0時6分配信 時事通信
 JR福知山線の事故報告書漏えい問題で、JR西日本のSU東京本部副本部長は26日、同本部で記者団に対し、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委員会)のY元委員以外にもう一人の旧国鉄出身委員に接触していたのは自分だったと認めた上で、接触はT副社長が室長を務める同社事故対策審議室の指示があったことを明らかにした。JR西は国鉄時代の先輩―後輩関係を利用し、組織的に委員からの情報収集を行っていたことになる。
 接触相手は、SU副本部長が1980年代に国鉄構造物設計事務所に勤務していた際の同事務所次長で、事故調で鉄道部会長を務めていたSA元委員。
 SU副本部長によると、2006年8月ごろ、審議室の打ち合わせで「(SA元委員は)よく知っているだろう。(調査内容で)聞けることがあったら聞いてくれ」と指示を受けた。
 このためSU副本部長は、やはり同事務所時代の先輩で鉄道総合技術研究所関係の会社に勤める国鉄OBも誘った上で、SA元委員に連絡。同月から07年6月の報告書公表までに約10回、その後も1、2回、東京・新宿の中華料理店で3人で食事をした。この際の1次会費用はすべてSU副本部長が負担したという。
 ---------終了
うーむ。
勿論、反社会的でだめなことをやっとるには違いないのですが。けどいろんな人がいってる話だけでなく、ちょっとエキセントリックなことを述べてみようと思います。
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確かに本件、JR西自体にある企業倫理の問題が大きいと思います。ただし、ここでJR西がこのアクションを起こすことを法規的に抑えることができるかというとこれまたむずかしい。今はJR西は上場企業で公益法人でない。利潤追求企業の活動原理から考えてそもそも無理があるといえます。そのため本当は調査委員会のメンバーに秘匿義務や接触防止などの高い秘匿義務、技術者倫理スキルが求められるのだが、そちらが機能しなかったことに本当は問題の比重が大なのではといえましょう。
営利企業であり、公共性を保つか経営の確実さを選ぶかという相反条件で臨む前提で、市場で株を公開しているという以上、このような行為を制御できるのは法律というより倫理(企業倫理・技術者倫理など)の問題になってしまい、そもそも公共性の高い事業に対し営利事業性を求める是非という、新自由主義の社会か、社会資本主義の社会かという選択にまで行き着きます。
なお、注意しなければならない事情があります。ここで考えなければならないのは、複合的要因がある事故調査の専門委員になるクラスの高度専門家にJR系の専門家の割合が多く人材の選択肢が狭い事です。実用研究には私鉄にも高いノウハウがありますが、事故対策研究は私鉄では鉄道総研依頼とかいうものがやはり多くなりがちという、構造的問題が元々あったといえます。そういう議論になると、企業体の存立、最低限の雇用の確保という前提に立つと、究極はJR西の行為を正当化するべきでないのは前提ですが、もともと求められる技術陣容の専門家が少ない現実では問題が露呈したこと自体に、社会の健全性を見るともいう皮肉までなりたちましょう。
また海外では、飛行機の場合は元々機体製造メーカーやオペレータが限定されていることから、事故調査会式が多いのですが、鉄道の場合はこのシステムをとっているのは日本だけで(そもそも日本の場合も航空のいい事例を導入した経緯)海外では、技術専門家により長期的裁判を行なう(但しあえて事故関係以外の国の技術者を招聘)ということで、日本から人が招かれるような状態です。
鉄道関係の専門会議に行くと、国鉄・国鉄流の技術だけが鉄道の王道足るべしという議論をとうとうとされることもおおいそうでして、私鉄や私鉄資本の入っている車両メーカ、市営交通などの公共交通や、国鉄資本が入っていた経緯もあり技術的つながりも多いはずの営団地下鉄・東京地下鉄の技術者まで、苦虫噛み潰す顔をしながらも、文句を言いたくても、口に出したらめったうちになるからしないというのも聞いたことがあります。
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こういうことをある人のBLOGに私見でよせたら、JR西日本が昨年(2008年)に出した中期経営計画
http://www.westjr.co.jp/company/ir/pdf/20080516_02.pdfの中に、「企業の社会的責任の遂行」として、次のことが謳われているという情報をいただいた。

●企業の社会的責任の遂行に対する社会の要請に応えられるよう、健全な事業活動を通じ社会に有益な価値を提供し続けていくことを基盤に、コンプライアンスの徹底等を図る
●社会貢献活動についても積極的に進める
とあるようです。あーあ、やっちまったなあ。
企業の社会的責任というのは問題点の明確化と、その顕在化で社会に信をとるという責務ですな。ただしその社会の要求が、依然にくらべ高くなっているところに、
●企業体としての資産形成(収支)
●雇用確保(このことを企業の責務にするのは日本はこれでも世界の中ではきついらしく、海外では雇用契約慣習の特異性という社会問題と日本企業に対してみており、視点は異なります)
●安全(=品質)要求(日本では普通だが国際的には異常とまで言われ始めています。・・・これはちょっと難しい話なのでまた改めて・・・)
があって、かつこの会社の場合は公共インフラという利潤活動とそぐわない側面ももっていますから、経営陣の能力がついていかなくなってる上に資産・収支などの問題を抱え、後の株主配当まで考えると、一度悪い方向に走り出した以上抑えられないということが見えます。
特にATS-Pという信号装置の導入を経営問題から当該線区に導入を遅らせたことが錯誤であるということが、この場合の「ロビー活動」(おい)の問題です(というのは、旧来のATS-Sの改良型ATS-SWでも本件事故に限っては十分な機能を達成するのだが、ATS-Pに移行する選択肢を他のJRの方針に従いやっていた。しかし、資本形成が震災の影響などでの一時損失が膨大のためままならないことがあって、のびのびにせざるを得なかった)。
だが、ご存知の通り信号系導入自体が経費捻出できず、ATSを採用出来ないことを事故の対策の前提にするなら不可能で、廃業した鉄道会社もある(---事業改善命令の負担に耐えられず営業継続を断念して第三セクターに委譲し、この廃業で残存した路線の一部も経営権を委譲するなど大きな経営問題になった京福電気鉄道の事例を参照されたし-----)わけで、口では言うがむずかしいところもないわけではない。
その意味で、ATS-P以上の機器を設置することをMUST(ATCを含む。ATS-SWはNGとなる)とする指導がでると、そのことでJR西の管理している線区の一定輸送量のもののうち、かなりの分が事業停止になるという判断は、私はありうると思う。つまり、企業の社会的責任の遂行という中にも優先順位が設定されたら、こうならざるを得ないのであって、今回のロビー活動は「毒食わば皿まで(毒を食った以上もういくら手を打ってもどうにもならないから、いっそ毒を盛った皿までなめつくせ、ということから、一旦悪事あらば徹底的にやり通すしかない)」という、半分確信犯と思っている。
まあ、潔く「経営権を売却します」ということも、現在の民営化スキームではありだろうと思うし、この手の新会社方式は私鉄・バス会社で最近あちこちである(以前のような放漫経営というのは最近はない。同時にどこでも便数減少路線撤退を伴う)。当然経営者は事業から立ち去ることになる(清算予定の第二会社には残るだろうが)から、公益の納得は得やすい。但しJALの経営改善の手法が政権交代で差し替えになったようなコンセンサスの立脚点の差はどうしても免れなかろう。
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調査委員会のメンバーに秘匿義務、技術者倫理スキルが機能しなかったというこの様な事例を技術者の資質という問題で見た場合、応用倫理の研究事例として、工学では技術者倫理というものがあります。
日本技術士会 10月度修習技術者研修講座として、10月3日13:00~18:00に港区神谷町にある日本技術士会葺手第二ビル5F会議室にて、この様な若手技術士を目指す人向けのセミナーを行います。
「行動原則」
<テーマ>
「技術系管理者におけるリスクマネジメントを考える: 技術者の役割」
<主旨>
JR西日本の福知山線の事故を例に取り、リスクマネジメントの観点から、技術系管理者がどのように考えればよいかを、グループでの討論を行い、技術者及び組織管理者の役割を学ぶ。
<講師>敬称略
中村昌允 東京農工大学(教授)
小西義昭 ㈱日機装技術研究所
高田 一  横浜国立大学(教授)
岡田惠夫 ㈱フジタ
<概要>
福知山線事故の概要説明 (中村昌允)
グループワーク課題、発表
全体討論

以前、某家電メーカーで「省エネ」製品として売っていた冷蔵庫に、実際にはその素材をほとんど使わなくなってしまったため排除命令が出て、詐称になったことが報道されたまさにその日に、当該メーカーに私が技術者倫理がらみの話をしにいったというイヤな記憶がありますが、今度は今度で、こういうセミナーの実施前に、当の企業がこんな話題を提供してくれちゃってorz、とあいた口が閉じないのも現実です。

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コメント

こんにちは。またまた、技術者倫理の題材が増えてしまいましたね。確かに鉄道技術は鉄道関係者が一番よく知っているでしょうし、その委員会に鉄道以外の方を入れれば門外漢と言われてしまいますし。一方、教育の場合は、皆、経験から一言は口をはさめてしまうという問題がありまして、教育の専門家とは何をするの?ということが問われてしまいます。

投稿: KADOTA | 2009年10月 3日 (土曜日) 17時12分

上記中村先生から結構面白いサジェスチョンを得ました。(詳細自粛)
ただここでも社会における企業の存在という意義の定義付けを明確にしなければ、暴走をする傾向はあり、また、(技術者倫理で定義する意味の)「公衆」はどのようなスキルをもち、志向があるかによって変わってくる側面はかなりありそうです。
なお日本機械学会でも演習(若手技術者のための技術者倫理セミナーシリーズ)を一般の機械技術者向けに仕込んで近々行なうと聞いてます。

投稿: デハボ1000 | 2009年10月 3日 (土曜日) 21時39分

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