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心理・労務的最適化と技術・経済的最適化

ガソリンをスタンドで入れてもらっているとき、給油中のお願い項目に「エンジンはoffに」のほかに「携帯電話の電源をお切りください」とあるにはなぜでしょうか。
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よく「携帯電話の着信時の微弱電流や電磁波により気化したガソリンが引火して爆発を起こす」と言う理由が挙げられますが、これは可能性のひとつとして考えられるものの科学的には立証されたものではないですし、通信施設近所のスタンドなんかではこれはたまったものではない。
元来、ガソリンなど爆発しやすい液体を扱う場所においては、「防爆」概念で決められた「防爆規格」を満たした電気機器を使うことが、国際的にはIEC(ULというのも立場は違うがある)にも厚生労働省の指針でも求められています。「防爆規格」というのは、その場所の環境(扱う液体やガスの種類、引火点の温度、ガスの充満具合)によって、その場所が「どれくらい爆発が起こりやすいか」という分類をし、その分類に応じた「爆発の起こらないような構造の電気機器」を規定するものです。
(根拠:労働安全衛生規則 第280条(爆発の危険のある場所で使用する電気機械器具)可燃性ガス・蒸気が爆発の危険のある濃度に達するおそれのある個所では、防爆構造電気機械器具でなければならない。)
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防爆構造電気機器の認定を取得している携帯電話が現在事実上存在せず、非認定の機器をGS内での使用することは「法的に認められない」からとはいえます。機構的に耐圧防爆の製品は作れない訳ではないですが、それこそ昔のショルダーホンになります(構内電話用としての携帯電話は「コードレス電話」の形で10年程前には三菱電機製がありました。基本的には構内PHSに近い構造)し、商品性が乏しいから製品化されないようです。実際に携帯電話が着火源になるかどうかではないようです。

労働安全衛生規則は元々スタンド事業者とそこの労働者に対してのものです。但し元々これらに典拠した法令でスタンドの管理業務が決まっています。一般利用者もこれに準じて事業者(スタンド事業者とそこの労働者)が規制させる管理権限を持っており、これを遵守しない顧客に対して指導を行わなければ監督責任を問われます。従って、この根拠を法令に持っているものです。今は携帯電話に防爆構造電気機器の認定を取得している機種が存在しません。これは遵守した場合の携帯電話が出来ないというよりも、上述のように小型軽量という商品性の都合で事実上なりたたないことにあります。
化学工場や石油関連施設などで、爆発の起こりやすいエリアでは、設備の温度や圧力を計測する計器類・モーターや照明まで、なんらかの「防爆規格」を取得した製品が使われています。現場作業などで携帯電話を使用する場合も、「防爆規格」を取得した特別な構造の電話機(PHS)を使用するべきですが、製品群がいま無いので「防爆構造」の固定電話を使用しています。このこともあって、製油所などに仕事でお伺いすると、携帯電話自体を警備室で管理し、「ここにおいていってください」ということはあります。(カメラを使ってはいけないという守秘上の都合ではない)タンクローリー車が製品を積む製油所では、携帯電話の電源を切ってからの積載作業従事を取決め(指導)ている場合もあります。このように工場では確かに管理が厳重です。
この点地下タンク構造になっている日本のガソリンスタンドは、風通しなどを考えて引火性のガスが充満しない環境であるため、そこまでは必要が無いものが多いようです。但し必要ないからしなくてもいいということか・・・とならないのが理解しにくいです。
そのときの状況判断に応じて携帯電話のスイッチをON/OFFするべきではあるのですが、それを作業者に個々に求めることは、徒に難しい判断を現場作業者に強いることになるわけで、判断を担当者に任せるとなし崩しになるということが現実の作業実態を考えると免れない。そこが原因で全てを規制してしまうしか周知徹底が出来ないということがあるのは理解しなければなりません。
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さて、外国で携帯電話が原因でガソリンに引火する事故があったといいます。日本でも1998年ごろガソリンスタンドで携帯電話の原因と考えられる要因の発火事故はありました。しかし、通常の使用状態とはかなり変わっています。この日本の事故の場合は、少年達が夜間に休止していたガソリンスタンドに忍び込んで、無断でバイクにガソリンを給油していた(窃盗事件)時に始まります。少年はヤンキー座りをしてガソリン蒸気が滞留する位置で電話をしていたらしい。要するにかなり低い位置でガソリン蒸気が混入し易い位置にあるため引火し易いという状況と想定されるのですが、そこに携帯電話が掛かってきてその時出火したといわれています。これを事故の芽として考えるか、悪意の作為という視点にたってしまい、違法性を持った行為と考えるかでかなり変わってきます。
ここで、一体どこが誘引なのかを考えるのですが、私自身は振動モータの問題ではないかと考えています。
今の構造はモーターに偏心フライホイールをつけた小型モーターを使っています。(参考:http://www.shicoh.com/product/vibration/index.html)この構造は(いくらかは製品群として残っているブラシ付直流モーターでなければ)発火性がない構造と考えられています。但しこの構造は振動の力があまり取れない構造といえます。そのため小型で大きなバイブレーション効果をえる場合は、1995年ごろはリニア揺動モーターを使っていたようです。この構造は携帯電話の小型軽量化と共になくなっています。但しこの構造だと大きな振動加速度が取れる一方、スパークの発生の可能性があるんですな。
当時に比べ構造が変わっていることは注意してよい。もちろんバイブレーション機能を切るとかいう工夫が使用者の間で確立しているならいいのですが、これも簡単には無理だし、緊急の時の対応ができるだろうか。
たしかに、給油所に貯蔵されるガソリンは極めて安全な状態にあり、火災自体はあっても爆発した例は皆無です。関西震災後の写真で、焼け野原の中に防火塀で守られた様に給油所だけが無傷で残っている写真がありますが、他国であまり見られない防火塀は近隣への類焼・爆発の時の波及を避ける為に設置を義務付けられたものです。ここまでの安全は確かに経済性という意味では無意味ともいえるでしょう。しかし、爆発事故における被害は瞬時に発生し、避難もできないことから被害額(資産的・人的)がほぼ無限大に換算されることからという典拠では、その全体的効果を考えると、確率的に相当低い場合でも排除をすることがあります。
その意味で「今の」携帯電話が発火源となるのは「都市伝説」とはいえなくはないのですが、その事故を起こした場合は被害が無限大になる。そこで法規的な問題も前提にし、さらに周知の都合上「携帯電話使用の危険表示」を出すしかない。このストーリーに基いているため、防爆の規定の中に横たわる思想形態は最悪条件まで想定し、かつ心理的側面まで含めた最適化ということであり、技術的最適化・経済的最適化ということとは少し異なるということを知っていかなければなりません。
従って私は

○今の携帯電話だと基本的にガソリンスタンドにおける出火は起こりえないといえる。
○但し、『完璧な安全』を求めることを前提とする事象、しかも確率論でなく限りなく絶対的安全を求める前提だと携帯電話自体を排除することは完璧な安全に繋がる。
○携帯電話の内部構造や設定に依然することは実質上管理も出来ればいいのだが、それは実現性に乏しい。
○海外の防爆法規との整合性も有る。

ということだと考えています。
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ところでこのように、管理能力上不要である処までに幅を広げてる場合は意外とあり、それと純技術的な問題と異なる判別をつけないようにすることで、心理的側面の安全管理をすることがありますが、この中にはいわゆる政治的要因ということ、既存の知識や風習との心理的連続感、導入の容易さを持たせる場合はあります。このあたりをよく分けずに判断することがどうしてもあるのだろうと思いますしそれは免れないのかもしれません。
この中には仮説が乱立しているためと、想定される悪条件を想定しているためにその理由がわかりにくいというものがありそうです。例えば携帯電話がペースメーカーの影響を受けるため禁止という事例の中には、このようなことを根拠にしているとの主張があるようです。
今、定員の2倍程度の乗客をのせた電車の中で全員が携帯電話を用いて受発信した場合は、電磁波の密度を考えると電子レンジの中程度まで上がるという。ここまで来るとこれは想定できない条件であるという考えであろうが、満員の山手線の駅と駅の間で電車が事故で止まったのでみんなが電話を始めたことを想定して計算したことだそうです。最悪条件まで想定し、かつ心理的側面まで含めた最適化に近いところがあるといえましょう。
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これも似ている側面がある。
京福電気鉄道越前本線列車衝突事故のうち2000年12月17日の事故にもそのような、第三者による制御不能な事象をかなり上の次元で最悪条件を想定して設定したものがある。
13時ごろ、京福電気鉄道永平寺線の上り列車(1両編成:東古市駅(現:永平寺口駅)行き)がブレーキ故障により分岐駅である東古市駅に停車出来ず突進し、越前本線福井方面に分岐器を割り込んで進入、越前本線下り列車(勝山行き)と正面衝突、故障した上り列車の運転士1名が死亡、両列車の乗客ら24名が重軽傷を負った。
ブレーキ故障は、ブレーキを作動させるロッドが、老朽化と繰り返されてきた溶接補修作業により破断したのが原因であり、同社、及びこのロッドの溶接管理業務を受注・作業を行ったJR西日本傘下の技術サービス会社の施工検査体制が問われた。(補修会社は不起訴。そもそもこんなに使うことは想定していないこと、応力集中がし易いところを溶接するという形でもあった。基本設計が大正時代の技術では想定が難しかったかもしれない)
この車両は、車体床下に装着された1個のブレーキシリンダから、ロッドによってブレーキ力を伝達し、各車輪のブレーキシューを車輪に押し付ける方式で、戦前の鉄道では普通に使われていた(戦後の車体だが、下回りは大正時代由来の車体更新車)。
このような事故も今まで無く(もっとも、この事故までこういうモードが明らかにならなかったともいえる)ブレーキロッドが折損するとすべての車輪のブレーキが効かなくなることが判る。国土交通省は、ブレーキ系統の多重化等の対策を全国の鉄道事業者に指示し、同じ構造のそれまで全国各社で運用や、動態保存されてきた車両の運行が取りやめられた(この命令は1両編成の場合で客扱いの場合に限る。2両以上の場合は1両のみ破損でのフェイルセーフが確保されるため使える見方。現在のえちぜん鉄道の車両ではこのロッドタイプの車は2両連結運転に限って混雑時中心に使っている。また徐々に廃車している。)
たしかに、各台車各軸に独立したブレーキキャリパーが取り付けられるものが今は一般的だが、間違えてはいけないのは元来は安全性向上のための多重化ではなく、ブレーキの応答性を高めて高減速性能を確保する為の国鉄及び大手私鉄の新性能電車によって確立された技術であり、全然目的の違う技術がたまたま運用上定着しつつあったからにすぎない。また確かに空気圧縮機は一個であるから(蓄圧タンクで有る程度制動を掛けることは出来るが)本当はこれだけでブレーキ系統の多重化が出来たというのは大きな論理の飛躍があるといえよう。逆に言うとそのほかの安全策は見出せなかった。ただしこのような閑散路線で苦労して車両を補修できない状態で少ない乗客数なのに2両編成にするのは、運輸効率からみたら厄介な話である。
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このように人的制御が付かないことのため、技術的には???なものでも、現場の制御能力を考えて過剰なレギュレーションにするということを技術的指標と考えないと、マチガイになります。心理・労務的最適化と技術・経済的最適化が異なったもので、法規・指導には混在して現れること。原子力などでも同じ現象があります。そこを読めるように腕を磨くのが、実務に長けた技術者でありますし、認証技術者というものの存在理由の一つだと思います。

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