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洛陽の紙価を高める(2/2)

(承前)
このことは、当時の著作者としては革新的であった。と言うのは、創作自体の付加価値を利益とすることと、それによる副次的業務(例えば作家インタビューとかの費用)も含めての商売のほうにも影響を及ぼしたと見えるからである。というのは上述のTバス会社に対し長谷川町子氏は、利用権を認める方向性を一切取る方向性を行わず、以降の彼女の著作も本来の作家一本に徹し、マスコミインタビューさえなかったという。具体的にはそれ以前にあった会社とのお付き合い(TBS・毎日新聞)も減らし、朝日新聞・フジテレビ・新潮社(米国での英語版発売)の付き合いにかぎるような結果になった。(著作は姉妹社という自分と家族が経営する出版社から)彼女の管理は徹底しており、パロディーなどを正規ルートで頼んでもほとんど認可されない状態であったという。(但し、東芝とはかなり付き合いがあった。)
この経緯もあるからか、サザエさんは他の長谷川作品以上に、版権管理は厳しく、資料集などでの画像使用の際、申請しても許可が下りず、(替え歌も同様)アニメ主題歌がシングルCDとして出た時も、ジャケットにキャラクターの画像が使用されることはない。挙句、ハウス食品から発売されていた「サザエさんちのふりかけ」でさえ、パッケージにもテレビCMにもサザエさんの姿だけ無い。 但し、長谷川氏の死後、(行き過ぎという認識もあったのかもしれないが)マイラインやJA、コカコーラなどのCMで、アニメのものを中心とした本作のキャラクター画を使用されることが多くなってきた。
一方、Tバス株式会社も、キャラクターラッピングバスは1996年からはじめたということになっている。(27年間やらなかった訳)その後のルールの確立も大きいであろう。
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で、二次的著作権というものでもこういう事例がある。また人気のあるサザエさんである。典型的な事例で、サザエボン事件 というのがある。
1990年代に、関西地域発で合成パクリモンが横行した。関西人の感性を刺激するミスマッチ商品であった。
赤塚不二夫氏の 天才バカボン
長谷川町子氏の サザエさん
この2つを合成した”天才サザエボン”を福岡県の(株)大成が販売した。サザエさんの磯野波平と鉄腕アトムを合成した波平アトム(鉄腕波平)は1日1000万円売れ、新大阪駅に専門店舗が出来るなどすごいことになったそうだ。(このほかに波平と安室奈美恵の合成「アムロ波平」(参考)というこれまたすごいのがあった)
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その後長谷川町子美術館(故長谷川氏の著作権管理業務もやっている)、手塚プロ(故手塚氏の著作権管理業務)、赤塚不二夫氏が東京地裁に訴えを提起し東京地裁は著作権侵害で(株)大成に差し止め判決を申し渡した。しかし、この時すでに韓国の会社がこの天才サザエボンを勝手にコピーし日本で安く大量に販売し(株)大成(この会社は福岡の企業)は差し止め執行前に倒産。(株)大成は韓国メーカーに対して差し止め請求を出したかった由ですが、実態はすでに韓国製になっていたわけ。

ことが厄介なのは、これを商売としたのはじつは他の人らしいのですよね。大阪、十三で、毎週日曜日、閉じた銀行のシャッターの前だけに姿を現わす「TOY魔人」という謎のおもちゃ屋さんがあった。「サザエボン」等は、そのTOY魔人のオリジナルアイテムだった。彼は市販の天才バカボンのパパのキーホルダーの人形の顔と、サザエさんのキーホルダーの人形の髪型をカッターナイフで切って無理やり強引に接着剤でくっつけたものを販売。一個一個手製の加工なので、数は作れないが、地元で人気商品になった。
この情報が関東まで波及し、大量生産され始めたころ、ことの経緯を知って、赤塚不二夫氏はTVの報道に答え、

○最初、見たときは面白いと思った(発想は実にイイ) 。
○100個、200個作っているだけならともかく、ここまでくれば話は別。(つまり露天商さんを訴える意志は無い
○ちゃんと権利者がいる以上、ちゃんとしてほしい。

と語ったという。
これを見ると、一体だれの著作、誰の著作権という根源自体が読めない状態になっている。(株)大成はサザエさんと鉄腕アトム・バカボンの著作権者(+当時ならライジングプロダクション・・安室奈美恵の所属事務所)だけでなく、TOY魔人からも本来は許可を得なければならなかったわけ。更に途中で韓国企業まで入り込んできた。これはたぶん欧州の志向からすれば許されないでしょうが、東洋の考え方では何の問題があるのかという話になるんですね。著作権とかその責任・信憑性に関してアバウトであるからこそ社会が成り立ってきたという東洋、ここを見誤らないようにしたいものだ。
この事例は、著作権を考えるうえで興味深い二つのポイントを提供してくれている。二次的著作物の権利について。そしてもうひとつは、原作者によるそれの黙認についてだ。TOY魔人の場合も、厳密には確かに著作権侵害に相当する。コミケに行くと分かるが、マンガの同人誌やフィギュアでも同様のことが問題のはず。ただ、現実にはそれらはファンが楽しみでやっていることで、結果的に原作のプロモーションにつながることも多いから、原作者の側が黙認する場合も多い。(ただ長谷川町子氏は、今までの経緯もあり存命中は一切黙認しなかったという。)まったく派生物が生まれないというのも、作者に寂しさを感じるというところもあるのはわかるが、このあたりは個人的指標に依存してるから基準が決まらない。
さらにのまネコ訴訟と言う事例がIT文化の所から出てくる。(以下これを参照のこと。また、http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/03/news033.htmlのように、ITの推進が旧来の著作権自体の概念を崩し、どの世界でもそれが最適化されるコンセンサスが出来ること自体、ないと考える芳香性もあることに注意)詳細は述べないが、この結果、文化庁の対応が行われている。http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/c-l/index.html
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典型的な話ですが、この話が関東と関西とで思い切り違うともいえます。関西では創作物として認識されており、関東ではそうはみなされなかった。勿論上記の福岡の会社や、韓国の会社に対してでは議論に別れがあるようだが、TOY魔人に対してはそうではないようだ。
大衆歓楽街で、阪急の結節点でもある阪急十三駅前には『波平通り』という飲み屋通りがある。(通称小便横丁)十三西口を出てすぐ右に曲がる。どの店も安くて美味しいとか。そこには看板の上部には「鉄腕波平」の看板がずらりと取り付けられているが、これ自体も著作権上はグレーゾーンである。
(勿論、1987年、長谷川町子美術館近傍の東急田園都市線の桜新町駅前の「中通り」通りが「サザエさん通り」と改称され、歩道にはサザエさんが描かれた看板もあるのは、長谷川町子美術館側の協力によるものであり、著作権上問題はない。これとは本質が異なる。)
結局、この世の中の人はいつ潰れるかを戦々恐々としているに過ぎないのである。
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企業でもこのようなことを憂慮することは多い。例えば日本経済新聞のセミナーなんかがある。
拡大する模倣品被害,技術者が知るべき現状と対策 
●日時:3月17日(月)10:00~17:20 ●会場:東京コンファレンスセンター 品川
● 経済産業省における模倣品対策の国際的取り組み  
経済産業省大臣官房参事官(模倣品対策・通商担当) 堀口 光 氏
模倣品被害の対象や規模は拡大する一方。模倣品業者の手口も悪質化しており,これ以上の被害を防ぐには各国関係機関の協調が不可欠となっている。本講演では,模倣品対策に関する国際条約の推進や米欧との連携,中国政府への働き掛けといった経済産業省の取り組みを紹介すると共に,各メーカーが実行し得る模倣品対策の基本的な考え方を紹介する。

● 中国における知的財産問題の実情と対策   
 日本貿易振興機構(JETRO) 在外企業支援・知的財産部 知的財産課 アドバイザー 服部 正明 氏
海外での知的財産問題の舞台は,主に中国である。そこで本講演では,中国で起きている模倣品被害を例に取り,「知的財産権の行使」「抜け駆け登録の対応」「技術流出の防止」という三つの観点から,メーカーの開発・設計部門で実行できる模倣品対策の指針を示していく。

● 模倣品対策における技術者の協力と留意点 弁理士 黒瀬 雅志 氏
模倣品被害を防止する上で技術者の協力が欠かせない。具体的な模倣事例を参考 にしつつ,模倣が困難な構造,模倣品と真正品との識別を容易にするための工夫などを,模倣品摘発の経験が豊富な弁理士の視点から解説していく。また高品質 の模倣品が出現する理由の一つである技術流出の問題について,その対策を検討する。

● 企業横断的な取り組みの意義と効果 ~事務機械業界のケース~  
リコー 法務・知財本部 知的財産運用部 商標グループ リーダー 平井 良治 氏
事務機械業界では,複写機・複合機,プリンター,ファックスなどの事務機器の消耗品(トナー,インクなど)を中心に模倣品の被害が広がっている。ただし,模倣業者は小規模・零細な企業が多いという業界特有の事情から,各企業による個別の摘発活動には限界があり,効果も限られている。このような現状を鑑み,事務機械業界では,業界団体であるビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)がさまざまな共同対策を検討・実践している。本講演では,そのような業界団体における取り組みを紹介する。また,模倣品の発生予防・臨床対策の面から設計・生産部門への期待を述べる。

● Hondaにおける模倣品への取り組み 知財部門と設計・研究部門の連携    
本田技研工業 知的財産部 朝霞ブロック ブロックリーダー 別所 弘和 氏
近年,Honda製品の模倣品は,二輪車だけでなく四輪車も出回るようになっている。また,外観デザインの模倣だけでなく,技術の模倣も行われている。こうした技術の模倣に対して,Hondaは法的対応を積極的に行い,意匠権や特許権に関する訴訟で勝訴するなど実効をあげている。なぜなら,模倣は顧客の不利益となる上,各企業の正常な技術競争にも悪影響を与え,産業全体の発展の妨げになるとHondaは考えているからだ模倣する相手を「敵」から「ライバル(正常な競争相手)」へと生まれ変わらせることをHondaでは目標としている。もちろん,模倣品製造の防止にも取り組んでいる。模倣品が流通する一因の「意図せざる技術情報の流出」についても知的財産部と設計・研究部門が連携,対策を進めている。模倣品に対しては,自衛が原則。そこで本講演では,知財部門による法的対応だけでない,設計・研究部門を巻き込んだ取り組みを紹介する。

どうも中国が相当集中砲火を浴びてるようですが、これは正直言って現象が顕著だから事例研究になっているのが大きいのでは。逆にいうと「単なる技術力」と言う意味と財力では、底力があることを示してるわけで、その力の無い国には模倣技術も無いという側面を示しているのかと思います。面白いのは『模倣する相手を「敵」から「ライバル(正常な競争相手)」へと生まれ変わらせることをHondaでは目標としている。』
という文面。是是非非というところでは一つのアグレッシブな手法だと思っている。なにしろ、模倣する相手を「敵」から「パートナー」へと生まれ変わらせることをやってしまった技量のある会社ですから。

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コメント

> 東急田園都市線の桜新町駅前の「中通り」が「サザエさん通り」と改称され、
生まれてから19歳半までとその後半年強の合計20年ほどここから歩いて6~7分のところに住んでいたんですけど、「中通り」って名前は聞いたことがないんですよね。25年間住んでいた(+10数年は自転車で10分ちょっとのところ)ヨメと、現在に至るまで55年間住み続けている父にも聞いてみたのですが、やはり聞いたことがないそうです。
「桜新町 中通り」の検索でヒットするサイトの言い回しがみんなよく似ていることから、同じ間違い(もしくは一般的でないごく一部の呼び方)を書いたものからの孫引きなのではないかと思います。
(ちなみに細かいことですが、1987年当時は「田園都市線」ではなく「新玉川線」でした)

長谷川さんが生前にこの商店街にサザエさんのキャラクター使用を認めたのは、長年お世話になり、作品の舞台にもなった(「三河屋」がこの商店街に実在した酒店なのは有名な話ですね)地元への恩返しの気持ちだったと聞いたことがあります。
(東急電鉄のマナーポスターに使われたのも確か同様の理由だったかと)

投稿: TX650 | 2008年3月24日 (月曜日) 23時03分

おはようございます。
長谷川町子財団はディズニー並に著作権管理に厳しいですよね。キャラクター商品などに展開すればものすごい価値を生み出すコンテンツだと思うのですが、めったにサザエさん関係のものは目にしないのは財団の強い規制があるからなのでしょうね。
と、思っていたら、こんなCMにサザエさん一家と思われるファミリーが出演しておりました。実際にアメリカで放映されたCMのようです。
http://www.vira.jp/file.php?id=1007

投稿: kunihiko_ouchi | 2008年3月25日 (火曜日) 07時30分

>生まれてから19歳半までとその後半年強の合計20年ほどここから歩いて6~7分のところに住んでいたんですけど、「中通り」って名前は聞いたことがないんですよね。
なるほど。多分それまで、公的な名称はともかく現実には名前がない道路だったとか、あるんでしょう。これは修正しておきます。
最近、このように、同じところからの文献が孫引きの形で出てくることが多いのですが、これは引用が簡単になって来た事も多い。但しこれ自体は今までの文献でもあったことが顕在化したという事も多いようです。でもいままでなかったわけではなく、誤謬が流布する事例のスピードが比べ物にならぬほど『遅かった』ということらしいです。
>東急電鉄のマナーポスター
ああ。ありましたね。原作に時々「TKK」(=東京急行電鉄)とかいた(車掌が乗った)路線バスがでてきてましたし、関係が良かったと思います。ところで、磯野波平は連載中「TTK(都下禿頭会=とかとくとうかい)」理事となってるとかありますが、完全に「TKK」を意識していたのではと。(笑)
>ものすごい価値を生み出すコンテンツ
そうですよね。ただし前項で述べたようにコンテンツの暴走があった経験が、このような管理をしていると思います。これは「コンテンツ収入をメインとするか」「作家としてのステーサスを保つか」という作家個人の考え方と思います。
>サザエさん一家と思われるファミリー
日本では放送出来ないでしょうね。ブラックで処理してるということはそこを考慮してると思います。なお、この場面はむしろ制作会社(エイケン)に著作権があるという気もします。

投稿: デハボ1000 | 2008年3月25日 (火曜日) 09時19分

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