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失敗の中に経験を拾う(3)

(承前
となると「失敗学」を日本人は、どう最適にハンドリングよく取り扱っていくかということを、既存の枠を外して考えたらいいかもしれない。そして実用的には「失敗回避技法」と解するべきではないかと。

新たな技術を考えるに当って、その技術思想と、適用する現場・現実・現物が違うことは良く有ることだ。「タグチメソッド」(TM:品質工学という場合も有る)の場合がまさにそうで、実際と理論を考えると乖離している。
品質工学」と言う概念を調べると分かると思うが、統計学の専門家が工業を中心にして解釈したら、この理論になるということである。提案されたときは統計学にはかなり論議が巻き起こったという、イノネーティブな議論だったそうだがいまでは世界が非常に崇高な理念を考えており、品質の評価としては(一部の問題は残っていると考えるが)各国で採用されることもうなづける。
ただ、ではこの考え方を実際に設計実務者や経営者、その他の開発を担当する人に解釈してもらうには非常に難しい理論なのである。となるとどうするか。マニュアル化するというのが一番なのであるが、それをするに当っては理論は抜いて「TOOL」(=「技法」)という解釈にするしかならない。かくて担当者に指導する人間は「レッスンプロ」みたいなものに特化する。
会社勤めのころ、品質工学に関する原価低減手法の指導を受け、実践を担当することになったのだが、詳細を勉強していくにつれ、「理念は非常に崇高である。しかし実用をする中身と乖離が見られる」と思い、その由、社内で報告書に書いたら、「言うべき言葉でない」と叱られた覚えがある。ところが、後年「品質工学自体は非常に有効だが、それを技法に使うと意義が変わってしまう」と大々的にいう大手電機メーカーが現れ、「おお、言いよったな」とほくそ笑んだ記憶がある。
日本は二重体系になっているからまだいい。アメリカでは「タグチメソッド」と言う名前になっており、日本以上に活用事例があるが、どういうわけか「TOOL」のところだけを珍重して使ってるところがほとんどなので、バックグラウンドが見えてない使用例が散見されるのだ。(具体例は省略)

同じことは、他の設計技術の事例でも見られるが、この具体例は止めておいて「学問」を「TOOL」にする場合の変化を考えてみよう。私の試論で有ることは承知いただきたい
(1)具体的なフォーマットを定めてしまう。(標準化)
(2)具体的な数値指標を定めてしまう。(定型化)
(3)具体的な使い方を定めてしまう。(ハンドリング向上)
(4)具体的な使用範囲を定めてしまう。(連鎖援用の防止)

従って、簡単に指導するため「41の原因から未来の失敗を予測」という表現を「失敗学」で用いる段階で「標準化+定型化+ハンドリング向上+連鎖援用防止」ということになってしまう。
他にも「問題解決の5レベル。40の発明原理。76の標準解。8つのパターン。39の技術パラメータ」という表現を用いるTRIZという技法がある。(いい説明がみつからないが、まあこちらなど)元の理論自体が、データベース解析からきているから、なおさら「標準化+定型化+ハンドリング向上+連鎖援用防止」が目的である。(但しこの組み合わせ数はざっと30万ぐらいになるのだが)
従って、「試験に出る英単語」が大学受験という目的だけであるのと同じと見ていいのではないか。(というのは、存命中の森一郎氏に半年習ったことがあるという稀有な体験をしているのだが、本人が、この本は「あくまで受験対策」という言い方であった。それなのに私の英語の語彙は増加しなかった(苦笑)。)
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その意味から、「失敗学」と言う意味では畑村氏は体系をつけ、かつ実践されているのだが、中尾氏らの執筆した「失敗百選」はあくまで技法(=TOOL)だという位置付けだし、そこは割り切るしかないかなあと思うべきであろう。だからこそ結構誤謬や事実誤認があるという見方があるののも分かる。(但し:中尾氏は創造性設計の分野における一連の執筆に関して、非常にすぐれた文献を出している所は評価していいと思う)
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というわけで、「失敗回避技法」という考え方に基くと、報告書形式による失敗の整理法:「題名」「事象」「原因ないしは推定原因」「対処」「総括」を使えということだから、これで先の事例を私の認識のレベルで解釈してみましょうか。いろんな見かたが出てくるのだ。
題名:PASMOのクレジットカードへの契約変更
事象:記名式PASMOをクレジットカードに変更する話を奨められた。その中身を判断し得ないスキルだったので契約しようとしたが、経理上の判断が付かなくなる可能性があることが分かった。
推定原因:当事者にクレジットカードを使う習慣がなく、またそのあたりの説明が理解できなかった。基本的に従来業務が広い意味でのデジタル・デバイドを持たなくていい内容であり、年齢的にも新たな習得はかなり難しかった。(注:デジタル・デバイド:パソコンやインターネットなどの情報技術(IT)を使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる、待遇や貧富、機会の格差。)また奨めたデパートの担当者も、その問題点を意識していなかったと思われる。
対処:この人の業務能力を知っている人間が実情をみて指導した。それによって、経理上の判断が付かなくなる可能性があることが分かったので回避した。
総括:デジタルスキル、デジタル・デバイドの問題を周知することが必要であるが、契約書などをよく確認することを認識してもらうようにした。今後、このような最近の動向を指導することによって、自分の能力に見合うか否かを判断する姿勢をもってもらう。
想定原因:(実際はこれでどうなったわけではなくヒヤリ・ハット事例であるがNo.15:特殊使用(想定外の制約) No.36:コミュケーション不足(個人の怠慢)
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もちろん、クレジットカードが悪いわけではない。それなりのスキルがあれば使いこなせるのである。今回はその危険性や煩雑性が大きすぎるという個々事例なのである。そこは間違えてはならない。個人の判断能力の問題になることから、悪意の産物という分類は使えないと思う。
反対に極端な例もしこれがいわゆる「オレオレ詐欺」(違う言い方になっているようだが)だったら、No.36:コミュケーション不足(個人の怠慢)、No.38:違法行為(悪意の産物)、No40:倫理問題(悪意の産物)となるわけである。

この見方も私の一面的であり、読み方によって、色々できるわけであるから、「学問」という考えをするべきではなく、あくまで絶対視しない「TOOL」=「技法」であるべき。そこを混在してしまわないという意味で、用語の使い分けをしなければならない。そこを提言したいと思う。
(続)

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コメント

こんばんは

>中尾氏らの執筆した「失敗百選」はあくまで技法(=TOOL)だという位置付けだし、そこは割り切るしかない

優れたTOOLには、貫かれている思想性を感じ取ることが出来ます。
中尾氏のしめした「TOOL」には何が貫かれているのでしょう。

殺人事件をいくつかに分類してその顛末をまとめて「これを暗記すれば殺人事件はなくなる」といっているようなもの。失敗が起きる現場の緊迫感(マイナスの緊迫感も含めて)から離れてたところで何を言っているんだろう、という感想です。

もし中尾氏に会う機会があったら、「41事例の丸暗記で、失敗が回避できると本気で思っているのですか」とひざ詰めで聞いてみたいですね。このかた、そういうときに視線をそらさない方なのでしょうか。
ちょっといいすぎかな?

投稿: SUBAL | 2007年8月11日 (土曜日) 22時06分

SUBALさん。いやあなかなか手厳しいことばで。それと体調不良により返事遅延申し訳ありません。

但し、あくまで設計工学のトレンドと市場(製造業者)のニーズと言う意味ではだれかこのような分類と『矮小化』はしなければならなかったのではないかと思うのです。
失敗学という意味では、20人ぐらいのメンバーがセミナーの中核として指導に当っているところらしいですが、「専門家の専門家による専門家の解析」にトレンドが行っています。ところが、(余り良い言い方ではないですが)「バカ分かり」が出来るツールと言うものがなく、それを実は現場の初心者や作業者に展開するには、何らかの分類をさせないと意識付けができません。同じことはタグチメソッドもあって、ルーチン化しえないものは全く普及しません。(専門家があーたら言っても実用に供さないのです)
したがって、これは試みとしては非常に真っ当な推進手法だと考えてるのですが、その熟成度合いというところは不満に感じるというには私も同じです。ちょっと拙速にすぎたまとめだなとは思います。けど会社組織で経営職に説明するときにはこのようなツールを使ったという説明にしないければ鼻にもかけない輩も大勢いることは事実なんです。

実は中尾氏は文責という意味でメールアドレス(大学の!)に問題点があったら色々投稿してくださいという文面があること(これ有る意味怖い行動です)。あと基本的に(p371記載)ノリッジの水平展開という確固たる信念があることなどやエピソードを仄聞すると「不完全では有るが、あえて公開し、利用される中でバグとりをしてください」といってるのではないかと感じました。もちろん完全とはいえないと思うからこそ、当方は(4)を書いていくしかないかなと思ったのですが。
なお、これ以降の中尾氏の執筆は失敗の分析のほうからいきなりはなれて、「突飛な設計をする方法」を模索し始めているようです。

投稿: デハボ1000 | 2007年8月22日 (水曜日) 22時46分

デハボ1000 さん 残暑厳しき折、くれぐれも御身大切になさってくださいね。

確かに、初学者向け現場向け素人向けのこの分野のまとまった本はなかったですね。

同じ「失敗知識データベース」の執筆陣から「破壊事故-失敗知識の活用-」という本が発刊されました。私は、こちらを強くお勧めします。知人が執筆陣の中ににいるという理由だけではありません。

私のブログで簡単な紹介をしています。

専門家による専門家のための書籍ではなく、初学者・現場技術者に向けて書いています。ある程度の知識や勉強は求められますが、そういう性格の領域だろうと思います。

投稿: SUBAL | 2007年8月23日 (木曜日) 01時11分

良書のご推奨ありがとうございました。この本を読みこなせるクラスにすべからず技術者はなるべきだろうという認識は私も非常に同感するところです。で、もう手配してます。(はやっ)

(ただ、余りレベルの高い技術者がいない事業所だと、この本でももてあますかもしれません。そういう場合は、私たちが間に入って指導するということがあるという認識は、業務指導をするときに非常に神経をつかうところであります。)
最近、はずれの本もあっただけに、ガツンと来る本が来そうだなと期待しています。

投稿: デハボ1000 | 2007年8月23日 (木曜日) 05時59分

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