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なめたけと工業規格(1)

PCの脇に「なめたけ茶漬け」の瓶詰めがある。JAS規格品による「なめ茸茶漬」である。明日の朝食のために買ってきたのであるが、このナメタケに日本の工業規格の問題点が凝縮しているといったら大げさなんですがね。
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JASにおいて「なめ茸茶漬」は固形分70%以上と定められている。この値は高級珍味品として扱われた経緯があり、高固形タイプが主流とされ流通されることを目論んで昭和30年代中ごろ設定されたとある。ところが、実はこのところ低価格志向の流もあり60%の固形分となるなめ茸も多く出回ることになった。(これはJASでは「えのきだけ味付け品」といわれ、JASマークの記載はできない)この2つのなめ茸加工品の区分は固形分70%以上・未満で区分されているので有るが、おのおの製造上の工程の安定性を見込んで規格品の固形分は公称80% 普及品(とよんでおこう)の固形分は公称60%となってるようである。(長野県農村工業研究所・専門技術員情報2001による)
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じゃあ70%の根拠ってなんだろう。どこに聞いても規格だという答えしか得られなかったのである。となるとものぐさ学生時代の自炊がこんなところで役に立つ。(爆笑)なめ茸というのは意外と簡単に作れるのである。
(レシピ)
えのき茸の袋入り3袋を購入、石付きを取りほぐしながら水洗い、ざるに取る。

なべに少量の水(小さじ一杯程度)醤油大匙一杯程度をいれて、その上に細かく刻んだえのき茸を載せる。

弱火で蓋をして加熱。すると段々えのき茸から水分が出てくる。

弱火の加熱を続けていくと段々水分が粘性を帯びた状態となる。

それをみながら、水分・醤油・砂糖(場合によっては水あめとか酒とか、アミノ酸調味料とか)を少しずつ入れる。こげないように撹拌。

30分ぐらい煮つめると市販品とそん色ないなめ茸の完成。(うっかり水分を飛ばすとすぐこげる)
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なのである。この製品?の固形分はどうかなというと厳密な処の固形量を測ったわけではない。(おいおい)しかしたまたま、到来物のなめ茸セットを入手したときに丁度作り置きがあったので、同じ形状の瓶に詰め込み、よこからながめ・すかし・振ってみたところ、どうもこの簡単なレシピのもので70%ぐらいの固形量になってしまうみたいである。意外と70%の根拠はここかもしれないなと思っている。まあうそだあと思うなら一度えのき茸の安売りの時にお試しあれ。
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まあ、私の作り方が正しいのか全うでないかは置いておき、単純に町の加工場が瓶詰めを作るときには固形分80%の規格品を生産する場合は出来たなめ茸を少し脱水する工程が必要になる。(このときの水分は次の規格品ロットの調味に再利用される)一方60%の普及品を作るなら水を多めに入れたりしてもできるのだろうが、味の安定化を考えると規格品で出た余剰水分を最後に混ぜたら帳尻があう。もし規格品の固形分80%のものを継続して生産していくと最後には余剰水分+エキスを廃却という非常にもったいない話になるわけだ。
高級品を作るために、普及品を作るという、なにやってるのという話になる。それが有意に評価されているならやりがいもあろうが、市場では仲良くJASに入ったものが180円 入っていないものが120円とかいうそんなにかわらぬ価格で売っている。高級品の固形分80%品と普及品の固形分60%の「なめたけ類」がならんでいるという、ダブルスタンダードが出来上がっているわけである。
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市場でとりあえず棲み分けが出来ているこの製品の場合、特段の影響はないという言葉ですまされるのであろう。しかし、高級品をつくり、製品の声価を高めようという初期の意図が、現実の工程では融通の利かないものになっているわけである。
でそのうまさは、はっきりいってどっちもおいしいんだなこれが。技術の現場との乖離の結果、規格がその場所で居座りを決めてしまっていることは、好ましいものではない。一旦作った規格も時限を得て見直したほうが流通のためには良いのではないか。もうすでに30年以上の製造実績が有るならば。
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同じことを水栓用の塩化ビニール配管で考えてみよう。ここにもよく似た問題がある。
15A(=1/2B)サイズの水道管は塩ビ配管で引かれるのがおおい。蛇口がそれ相当のR1/2ネジできってあるからである。塩ビ配管同士はインローによる接着工法で作られているから、15A用のメスネジを切ってあるアダプターを介してはじめて蛇口とつなげられるのである。(もちろんシールテープはつかいます)
JWWAという住宅都市整備公団などの住宅用認証基準によると、このアダブターはネジ部を真鍮で造り、塩ビでネジを「切って」有るものは許されないとある。蛇口の交換の時にネジがへたることが予想されたこと、この当時は、塩ビにネジを「切る」とその部分を基点にした破損が懸念されたのであるので、やってはいけない作業だったのである。ではそれが最適な答えだったかというとそうではない。金属を入れるために掛かる成型の手数はかなりかかるし、真鍮が錆(緑青)を持ってしまうことはよく見られた。
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他方であるが、塩化ビニールの成型方法は日々進化し、ついに1/2Bクラスのネジなら射出成型で、亀裂の発生も見られない。つまり削るのではなく成型でネジを作成するアダブターを作る技術が確立された。これは安価であるが、何十回も蛇口をつけたり外したりという要件にはさすがにねじ山のへたりがある。そこで考えられるのは、「そんなに蛇口って取り替えるものなのか」とみると、要求項目が品質過剰と考えられるわけである。要するに一般的な使用に限っては樹脂のアダブターを使ってもなんら差し支えないわけなのだ。
他方高品質の水道配管供給をその設立目的とするJWWAにとっては、品質上認められないという考えになり、これはJISにも踏襲された。しかも普及品は錆(緑青)の発生はありえない。従ってこのアダブターに関しては認証上必要とする場合に使う「規格品」と「普及品」との併売が連綿とダブルスタンダードとしてまだ行われているのだ。
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ここまで語ったことを考えてみると、規格を遵守することは当然の場合が多いが、技術的な比較評価を、規格見直しのごとに盛り込んでいかないと二重の規格(ダブルスタンダード)になるよという話。しかも始めのなめ茸のように固形分70%という数値の典拠が、もうわからぬようになってしまうと、硬直化した製品群が出来上がるということ。規格の意味を知らないで踏襲することは、結果的に技術の変化にたいして流に杭をさす存在になり、新技術の対応ができないという場面があることで思いもかけない技術の停滞まで引き起こす可能性があるということである
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だからこそ、規格書(JIS・JAS・JASOなど)を読むときには、その経緯を書いた付属書をよく読んでいかないと、説明責任まできちっと把握した、凛とした技術者にならないということである。
おなじことは、法令順守の場面でもあるが、その法令解説というものが無い基準書が片手落ちであるのも、同じである。
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さて、さっき書棚を整理していたら、父親の学生時代使っていた機構学と製図の教科書があった。初版昭和17年という代物である。この本は図面作成手法にもかなりのページを割いており、有る意味初学者にはお勧めの本・・なんですが、さすがにJESとか戦時規格の臨JESを使ってるので、一寸人にお勧めできないという皮肉。戦争のために工業規格をゆるく変えたのは日本くらいではないか。(他国では軍用規格は別立てでもあるし)
(未了)
------課題------
1:各種規格の設定は工業・農業などに渡っていい結果をもたらすと言い切れるか。反例をあげよ。

2:規格改定の動きがあると、各会社は利害調整に動く。その理由はコスト(人件費・工具などの見直し)にあるのだが、これらの工業会等でのメインの人物(キーマン)はどういう動きをする人が適切と思うか、意見を述べよ。

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