« 銭湯・ネコのその後 | トップページ | モノづくりの“秘伝のたれ” »

なめたけと工業規格(2)

(承前)
ここまで語ったことを考えてみると、規格を遵守することは当然の場合が多いが、技術的な比較評価を、規格見直しのごとに盛り込んでいかないと二重の規格(ダブルスタンダード)になるよという話。しかも始めのなめ茸のように固形分70%という数値の典拠が、もうわからぬようになってしまうと、硬直化した製品群が出来上がるということ。規格の意味を知らないで踏襲することは、結果的に技術の変化にたいして流に杭をさす存在になり、新技術の対応ができないという場面があることで思いもかけない技術の停滞まで引き起こす可能性があるということである。
-----------------

この製品の側で考えると、ダブルスタンダードは選択肢が増えるという意味のみでは、そこまで大きな混乱は与えないのが、製造工程がダブルスタンダードというのはとても厄介である。事故になってはじめて「ああ そうなんだ」ということも多い。

この事例の中で一番有名なものとしては「JCOの臨界事故」が全世界的に有名である。最新のテキストをお買い求めになりますと、まずこの事例は漏れなくどこかにあり、マニュアル遵守の不徹底という考え方が一般的結論である。
しかし、なぜマニュアルが複数個存在するのかというのは、今まで述べてきたようにそれだけその製造・生産・販売・規格に関する問題が潜在化しているわけである。コンセンサスが得られている製品では余り起こらないと考えていい。

以下、尤もまとまっていると考えた書籍の記載を引用する。(失敗百選 中尾著 2005年森川出版刊 P331~332 より)もし理解するうえで必要があったら、他の専門書も併用して閲覧してみることも、良い行動である。
--------------引用

JCOの臨界事故(1999)日本 茨城県
ウラン溶液製造中、元々違法な裏マニュアルを更に破った作業によって、臨界状態が起こった。作業員3人被爆、内2名死亡。付近住民を含め、被爆者436名

シナリオ
●1988年ごろから臨界管理制限質量異常の作業開始、作業効率向上
●1993年1月、ウラン溶液製造時に許可された溶解塔でなくバケツを使用
●1995年9月、JCO社内安全専門委員会でバケツ使用を許可、(違法性は認識)
●1996年11月、違法作業を明文化した内部用の「裏マニュアル」を作成
●このころ核燃料サイクル開発機構から、高速増殖実施炉「常陽」の燃料受注
●1999年9月30日 18.8%と高濃度のウラン溶液でも裏マニュアルを作業
●ウラン濃度380g/Lの硝酸ウラニル160Lを40L毎に小分け納入(4L×10本)
●1バッチとしてウラン2.4kgを硝酸と水で溶かして6.5Lを作成
●7バッチ(16.8kg)分を沈殿槽にビーカと漏斗で注入。平均化を目論む。
●1999年9/30 10:35、沈殿槽の中で臨界状態発生(臨界:核分裂が連鎖的に持続)
●作業員3人被爆 内2名死亡。住民含め436名被爆
●1999年10/1 9時ごろ沈殿槽の水を抜き臨界状態収束
●1999年10/2 18:30避難解除・安全宣言
●2000年5月 JCO社事業から撤退、(処理会社となる)

事故をおこした工程は以下の通り
(0) ほぼ年1回の受注を受ける(従って作業は非定常作業である)
(1) ステンレスバケツに八酸化三ウランと硝酸を溶解する
(2) 貯塔に溜め込み保管
(3) アンモニア沈殿槽に注入し重ウラン化アンモニウムを除去(沈殿させる)
(4) 仮焼炉に入れ生成された精製八酸化三ウランを生成(ここまで製品の純化工程
(5) 別にステンレスバケツに精製した八酸化三ウランと硝酸を溶解。計6.3L
(6) 沈殿槽に投入
(7) 沈殿槽は大きいため7バッチ分作れると解釈し、40L(7バッチ分)を同様に投入
(7) 沈殿槽のなかでウランが臨界状態を発生し、死傷者がでる。
---------------終了

 まず作業効率の向上を図るということは、日本におけるQC活動では賞賛される活動である。(違法性有無が語られていないことから)このときの経緯は不明だが、安全に関係ない形で変わっているのだろう。それは現場を見てみると、生産効率上致し方ないと判断したからである。それでも先に提出した作業標準が政府提出のものとこととなっている。

問題は「違法性は認識」しながら技術幹部が裏マニュアルを許可したことであろう。そこからがまずかった。ダブルスタンダードを追認することになってしまったのである。本来過去の実績から・・・といったらこれは違法行為であるから不味いので、「新たに検討を行って実験を繰り返しデータを蓄積」し、それを政府側に提示し認可を求めた上で、あくまで正々堂々と工程変更を「生産実績から」提案するべきであった。
ただ一般的に、価格低減というのは業者の論理であって、政府の論理では生産工程など知っちゃことではない。墨祖伝授を持って尊しとなす。このことから、ボトムアップによる工程変更実現には多分の時間的問題点があることは、管理者の経験から容易に想像がつく。
また受注が少ない(年1回)から、規格の変更自体に管理者や技術者が申し立てに言っても、まず、所轄部門が突き帰してしまう。これではその技術員がもたらす成果は少ない。
そこでダブルスタンダードになったのである。

で、上記(5)までは、ダブルスタンダードであっても、とにかく作業としては技能者には何回かの経験があった。10個4Lに分けて納入するのは臨界状態になりにくい形状の納入容器であった。(その意味は、JCOの技術者に理解される説明責任が社会に・会社内になされていたかが不明。
通常受注する核燃料の場合5%以下の濃度である。これなら臨界状態にはなかなかなりえないとのこと。それを「横展開」すると濃度が5%以上のものも「多分」安全に作業ができ大丈夫と思い込むのは、誰かの知識が伝わっていなければ、至極当然。さらに同一バッチにすれば全ての容器内容物の濃度が平均的な濃度になりやすいし、加えて工数削減を図れる。しかもこの作業を継続的に作業している人員がそう多くないのだ。これを確認する技術者がいたのか、現状を認識していたのかも不明である。

ここを考えると問題点は以下のようにまとめられる。
(1)裏マニュアルというダブルスタンダードが有ることによって、技能員の順法意識が薄くなった
(2)濃度による反応形態の差異が生ずることが、技能員らに展開されていなかった
(3)ウランが一定量集まっているということが臨界状態に転化する可能性がある。たとえばウラン235 100%を16㎏(12センチの球)形状まとめて放置するだけで臨界になる(広島型原子爆弾は、8kgの玉を2つ作って爆破地上空であわせて、反応を強制的にさせたという)可能性が高いらしい。ここを認識していた技術者や技能員がいたのであろうか。

従って、最後にこれらの技能者たちに対し、基本的な技術的知識を教授する必要がある。なのだが、このような内容は時に隠蔽されて知らされることが多い。特になんで4L舞に小分けして40Lを納入する必要性があったのかという説明を誰が出来るかというと、納入先にはいたのでしょうが、実際はそれさえもしてくれなかったと推察する。
ダブルスタンダードの存在が更なるカイゼンを生む。またその逆も有る。その良否を判断することを「カンジニアリング」でしてしまうと技術員の知識が生かされない可能性がある、日本人の現場主義が負の方向にはたらいたという、難しい事例である。すべからくは、技術の目利きがいなかったわけである。

中尾氏はロット計画などに曖昧な点が有ることを書いた上で「1984年からの安全管理委員会の決定にも問題があったらしい」と書いて文章を締めくくっている。

この事故の後、原子力技術者から、私信をもらった。その中に「もし私が、裏マニュアルに捺印せよということになったら、多分、余り深く考えず捺印すると思う」という文章は、いまだに忘れられない。
------------------------

余談になるが、説明責任は口頭だけの話ではなく、文書を介しても起こる。
(A)管理人がまだ駆け出しの設計技師だった時代、筐体の溶接場所を削減するため、そう改造した筐体を懇意の協力工場に修正した図面付きで試作課経由でお願いしたところ、削減した場所のかなりの場所に、溶接がしてあった。

デ「大将。こまるよ。実は、溶接削減で強度を低減する可能性検討の試験に使うんだから
業「あー、そういうことでしたか。実はね、『こんな中途半端な溶接で製品を作るとわが社の恥になる』と作業者がいうので、少し補強したのです」
デ「それは申し訳ない。趣旨を説明したらよかったのですね。けど、これでは検収作業をするわけにいかない。当該部をグラインダーを落として再度その部分を補修塗りしてもらえますか。納期延長で対価支払い延長にならないように試作課に連絡入れときますから。」
完全に説明責任不足である。試作図面に付記を付ければよかったのだから。
------------------------

もう一つの話。これはVAがからんでいるが、検討者の基本的資質欠如がなされたものである。始め決めたことを理由無しに変更したという事例。
(B)ガソリンの税金逃れという形でガソホールという燃料があった。日本の課税枠に入らないようにメチルアルコールなどがガソリンに含有させて有る。
始めしばらくは、これらの化学物質を韓国のタンク設備で機械的に混和させ、それをタンカーに積み込んで日本に輸出していたが、あるとき技術者が気がついた。
「タンカーのタンクにそのまま原液を各々いれ、タンカー輸送したら、船のゆれで濃度は一定になるのではないか
この思いつきは、VEの見方として納得はいく。けれども、予備実験をせずに、また着荷時の品質管理をせず製品に適用した。実際はそんなゆるい撹拌では分離してしまい、混和できない。それを全国に持っていったら、一部の地域のスタンドで、高濃度のメチルアルコールと略同様のものを供給してしまい、その結果何台もの自動車の燃料パイプ(樹脂製)を溶かして、車ごと炎上することになった。(その後日本政府指導の下、事実上現行の標準的な自動車には使えないことが報道も含め徹底され、また税率もガソリン並みに合わされて、実用化は遠のいてしまった。)
-----------------------
このように、原子力という処では、この災害は大きな影響を及ぼすことになってしまったが、日常にこのような意思の疎通不足や、ダブルスタンダードはあちこちに有ることは認識して欲しい。あちらこちらにトラップは仕掛けて有るとおもっていいかもしれない。
-----------------------

課題
(1)ダブルスタンダードというものが原因になって、災害になる可能性があるものを例示せよ。身近なものでいい。

(2)作業者の作業に対する説明責任は技術部門の管理職にある。とはいえ、実際は管理職と作業者が打ちあわせを行う時間等の余裕がない場合や、また説明責任があることについての認識が管理職、作業者双方にも薄い場合が多い。こういったケースで、もしあなたが技術部門の担当者(管理職の部下)という立場で作業者から質問を受けた場合、どういう方法で、説明・理解・納得させる方法があるか考えよ。なお、ここで「自分で調べる」のは当然の事とする。(注:管理者は、この状態にあって説明無用という形で作業員に指示し、結果として作業員の意欲を著しく削いでしまったという失敗の経験がある)

|

« 銭湯・ネコのその後 | トップページ | モノづくりの“秘伝のたれ” »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/100146/12788471

この記事へのトラックバック一覧です: なめたけと工業規格(2):

« 銭湯・ネコのその後 | トップページ | モノづくりの“秘伝のたれ” »