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モータ品質管理員の決意

皆さんが、設計者・技術者になったとき、当然お客さん・納入先・納入元の技術者と対話して仕様をあわせることになると思う。オタクでシャイな設計者で要られなくなるのはこのとき。発注者とのコンセンサス形成のために技術討議をすることになる。そのとき、その経緯の時、どこの誰が「そこはいかん」とかいうホイッスルを吹き、さもなくはレッドカードを出すのか。または納入先からレッドカードを突きつけられるか、社内の状況を含めて考えてみよう。

(以下の話は、一部秘匿の関係で曖昧な表現をいたしました。ただし大意に変更はありません)
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「シナリオ」(1)
電機会社Aはモータを製造する大手会社であり、特に特殊な大型モータについては信頼性の高さで定評がある。
炭鉱会社Bは、直近の国策に従い、ますます沢山石炭を出炭することを求められているが、それにあわせて炭鉱の動力源として大型モータ購入を検討している。そこで、種々の調整ののち、A社の設計技術者「甲」・営業担当とB社の購買担当者・生産技術担当者「乙」が打ち合わせをおこなった。
---その結果----
*モータは爆発を引き起こさないことが実証される防爆モータとする。(法的規制)
*但し粉塵に関する爆発防止を行う任意協議と所管部認証が必要(いわゆる炭鉱防爆)
*発注は50個(かなり大量)
*モータ軸受部は大型なものであるので、変動荷重も考慮し、給油はねかけとし、そのための油面確認用サイトグラスをもうける。一般品で可能。(この当時モータの軸受は信頼性の観点から輸入品のベアリングか、油潤滑しか存在しなかった)
*納期を出来るだけ前倒しでつめること。そのために「甲」は図面の発行を至急行い、「乙」は承認をすること。

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A社の設計者「甲」は大至急詳細設計を実施した。そこで図面も作ったが、油面確認用サイトグラスが当時の市況では防爆に適したものが輸入されず、国産品の生産では納期をオーバーし相当時間が生じることを懸念した。
そこで、B社の技術者「乙」に、炭鉱防爆の任意協議事項であるサイトグラスの素材について、簡易な実績品(但しガラスである)を使うしか納期を厳守できないことを連絡した。B社内では、使用上この場所で事故を起こした事例が聞かれないことを理由に、納期厳守のため本件提案を承諾する事を担当者「乙」から、A社に連絡させ、書面で承認捺印を送付した。担当者「甲」は、直ちに図面と打ち合わせ議事録を、A社の生産技術担当者「丙」品質保障担当者「丁」に連絡した。
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早速納期厳守のため、生産技術担当者「丙」は上長承認のもと、製作を急がせた。
しかし、品質保障担当者「丁」は、このサイトグラスが本当に使用に耐えうるかを、法令とつき合わせて考えたが、任意協議の範囲内になっていて、承認図面取り交わしの後では手を出せないような規定であった。「丁」の上長も判断しあぐねていた。
「丁」の苦悩の要因はサイトグラスの位置にあった。モータの配置場所の図面がきていたが、これで、炭鉱で使う安全靴やハンマー等がぶち当たれば、油が流出し、爆発誘引になる高さ。もし破損したら、製造者であるA社の社会的責任と、炭鉱ということで炭鉱作業員の重篤な生命が爆破という陰惨な現象で失われることが、頭をよぎった。そこで、普通ならサイトグラスの位置を変えたりするところだろうが、設計者「甲」も配置設計としての考慮はやり尽くした上の決断であったことがわかった。しかも、これに相当する安全性のある国産サイトグラスの入手は足が長くなっていくばかりであった。
品質保障担当者「丁」「丙」の上長にも掛け合ったが、納期遵守を至上とする彼とは話がかみ合わず、担当重役も、客先承認図面の捺印があることもあって、考慮不要との指示を出した。
そして工場の生産ラインから、当該モータ50個が製造完了したとの連絡が来た。
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力及ばずというところなのだが、現物が出来てきてしまった。現物が出ても最後のゲートとして、モーター性能の確認、絶縁などの機能確認、そして最終出荷指示は品質保障部門に権限がある。納期に間に合わせるため生産技術担当者「」はこの推進で疲れきっているありさま。
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「シナリオ」(2)
モータ本体の性能などのルーチン的な確認は問題が無く、特性なども全て所定の性能をクリアした。従って最後の外観検査を終えて、上長・営業担当とともに承認書面を作成すれば、残りは出荷担当者による梱包と納品になる。
品質保障担当者「丁」は、定時終了後の夜、外部からの力に対して耐えうるかを検査することにした。そこで彼は、片手ハンマーを取り出し、予め上司に見せておいたリストをもって叩き始めた。外観検査の始まりである。
1台目のモータを叩いた。モータ各面を叩き、異常がなかった。最後にサイトクラスを同じ力で叩いたところ、ガラスがわれ潤滑油がゆっくり流れ出した。そして2台目の検査も同じ工程で最後にサイトグラスを叩くとわれて油が出てくる。3台目も、4台目も・・・・・・・50台目も全て割れた。
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翌日生産技術担当者「丙」・営業担当は唖然とした。全品に「不合格」の荷札がついていて、サイトグラスが割れている。その前で成績証明書一式を取りまとめた品質保障担当者「丁」は言った。
「この製品は防爆モータとしては完全でしたが、炭鉱での使用はハンマリング試験で不合格と判断しました。最適なサイトグラスの装着を求めます。でないと出荷は認められません。」ホイッスルを吹いたのである。
営業担当、「丙」、「丁」は急遽B社に納期遵守不可能な現状と、社内検査結果の不合格理由を書面を携えて説明をしにいった。B社の設計者「甲」とその上長、購買担当は当初不満そうに聞いていたが、報告終了後の彼らの答えは意外だった。
「A社では、私たち社内で気がつかないところまで検査し品質を確認していることがわかった。従って納期順延を許す。もし事故を起こすと、モータ一台のために炭鉱一個が壊滅し、多数の工員が死傷するのは現下の状況では許されるものではない。仕掛したものは使用可能なサイトグラスを出来る限り早く入手して納入願う。また当方の社内の審査体制の不備もお詫びする。」
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サイトグラスを、改善品(というか従来の実績品)に交換するには、手配を含めて半年かかってしまった。始めから手配していればいくらかは遅延を回復できたのだ。しかしB社はこのモータのリピートオーダーをA社に継続発注し、サイトガラスを前もって仕入れることで短期納入も可能になった。1度は納期を失したのに、信用と信頼をA社は勝ち取ったのである。
最後にこれを聞いたA社の本社の重役は品質保障担当者「丁」を表彰したといわれる。
----考察---------------------------------------
以下のことを考えてみよう。
(1)甲・乙・丙・丁は各々自分のなすべき仕事はなにであると認識して使命感を持って職務にあたったのか。

(2)越権行為を超えることを考えず、Grで仕事をしているということに立ち返るとA社の担当者たちは、当初何を怠ったと考えるべきなのか。

(3)破損時の損害(納入品の不備による)と、使用者が受けうる損害(金銭的なものだけでなく、倫理的、政策的なものを含めて)をどうベンチマーク比較するべきだったのか。

(4)これらを検査項目として、相互にコンセンサスを取ったところ、各自の使命感を優先順位付けできると考える。試みて相互に討議してみよう。

(5)このとき、必ずキーとなるものが書面・・・いわゆるデータ、ドキュメントである。本業務を進行するに書面はどのような役割を果たしているか。各自が業務を遂行するに当りこの書類は、何を保障する形を演じているか。

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各自が各自の知恵と交流を図ることにより、小さなミスから大きな事故を抑止できる。それは君たちの入社すぐから、各々の立場で出来るということが、わかったと思う。もちろん一貫した主張と漏れのない行動規範を身につけることでなせる訳である。

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