« 猫さんおかえり | トップページ | リバースエンジニアリング(1) »

E233系の生産体制を検証する

(承前)
これについては、JR東の車両自社生産体制が課題だとか、関連する項目も多くある。しかし、ぼちぼち誰かが革新しなければならないと思う。JR東の自社生産体制の事については、社会的な面と経営工学的面から改めて論じたい
---------------------
というわけで、新津車両製作所の生産体制などについて少し調べてみた。
そもそもの沿革 http://www.ejr-niitsu.jp/  から引用をしてみる。
----------------引用
 新津車両製作所は、車両の計画から設計~製造~運用~メンテナンス~リサイクルに至る「車両トータルマネジメントの実現」を目標に、新潟県旧新津市にあった車両修繕工場(新津車両所)を車両新造工場として転換整備し、1994年10月に操業を開始しました。
新津車両製作所の電車造りには今もなお、山下初代会長の『自啓不止』“常に自己研鑽を絶やさず日本一の車両工場をめざせ”と言う精神が生きています。
---------------終了
山下会長」という方がこの工場を補修工場から生産工場へと変えた、立役者らしい。
ではこの山下氏とはどういう方なのだろうか。三井造船社長からJR東に転じた方(故人)とは聞いているが。そこで、北海道大学の機関紙をHPで見て見ると、下記の御二方の対談が載っていた。その中のコアな部分だけ取り上げてみる。
---------------引用  http://www.hokudai.ac.jp/bureau/populi/edition01/dialogus.html
松田昌士(まつだまさたけ)JR東日本社長 1959年法卒、61年院法(修士)修了
丹保憲仁(たんぼのりひと)北海道大学総長1955年工卒、57年院工(修士)修了

司会 最近の北大卒業生については、どのような印象をお持ちですか。
松田 今、同窓会の名簿を預かっていますが、東京の会社の取締役以上で北大出身者が千三百人います。一大勢力なんですよ。(中略)かつては、困ったときに、あるいは、海のものとも山のものともわからないときに、よしやってみるかと飛び出していく、そういう若さみたいなものが北大生にあったんですが、これがない。自分で考えて自分で作ってみるというのがないからではないでしょうか。
もう亡くなられましたが、最初に私どもの同窓会長だった三井造船の山下さん、日本のエンジンの大家ですが、この方に当社の技術系社員への講演をしていただいたことがあります。その時、山下さんは「大学時代、君は何を作ったか」と質問なさった。みんな大学時代、何も作っていないんですね。「君は何か物を作りたいと工学部に入ったんだろう。四年間も大学にいて、油にまみれて、何か作ろうとしなかったのか。そういう意欲は君たちにないのか」と、第一声、カツを入れられたのです。みんなびっくり仰天してしまいました。「技術系も事務系も、みんなサラリーマンになって、机の上でパソコンいじって、人が持ってきた案にイチャモンつけるような性格の人が多くなってきた。そうじゃない。自分で何でもやってみよう、油まみれでナッパ服を着て、頭からホコリかぶって夢中になってやることに情熱を持たないのか」とおっしゃった。聞いている社員みんな顔が青くなる思いで反省しました。それからJR東日本の技術陣が奮い立ってここまできたんです。
---------------終了
工学を志すものにしてみれば、徹底的な現場主義というところで、反面旧態依然だったJR東日本の初期の状態を考えると爽快たるものがある。この人が、逆に買い物で満足してきたJR東日本において車両を自らつくり、先に書いた「車両トータルマネジメントの実現」の牽引車となったのである。
--------------引用 http://www.ejr-niitsu.jp/
所在地  新潟県新潟市南町19-33
社員数  約400名
敷地   約150,000㎡
製造施設建物 43,000㎡
機械台数 約1,000台
年間約250両の車両を生産(1両/1稼働日)

主な沿革 (部分略)
1992年 7月  建設工事着工
1994年10月 操業開始
1995年 4月 209系第1号電車(京浜東北線用)完成
2002年 2月  相模鉄道株式会社向け 10000系電車完成
2006年 1月  東京都交通局殿向け10-300形電車完成
2006年 3月  E531系常磐線中距離電車完成
2006年 5月  累計生産両数2350両
--------------終了
1995年~2006年までに2350両を作ったことになる。工場概要には社外工だとかの記載はないが、JRの一般的な現業部門の体制を考え、この陣容でずっとやってきたとなると、下記の概算が面白い評価材料になる。

JR東日本のHPにおいてPDF形式で載っている文面を整理してみた。
JR発足後・2006年3月31日現在の新型導入車両(管理者注:総計のみを記す)
新幹線及び在来線特急:1689両
首都圏在来線:4508両(国鉄時代からの継続納入車両205・211・415系除く)
地方在来線新型電車:414両(転属は含まれていない)
地方在来線新型気動車:247両

ターゲットとしている首都圏在来線用:4508両は、必ずしも全部が新津車両工場で作られた車両ではない。従って実数はこれより低くなるはず。ただ相鉄向けとか東京都交通局向けという計算外のも含まれたりするわけだし、地方線の電車も少量あるわけで厳密な見積り精度は期待できない。(仔細を調べればわかるのだが卓観的に見るので充分だと考えた。)

4508両が19年でJR東に納入されたとすると237両/年が平均して納入されたと推測できる。
一方2350両が11年で製造されたとなると213両/年となる。このことを考えると年250両というのは工場初期の立ち上がりを考えると根拠は十分にある。(車両メーカーの技術的援助があったといえども)
現在の生産能力が250両/年ということを考え、工場を効率的に、かつ計画的に運用するということを考えると、逆算すると首都圏通勤電車の寿命を20年近傍と考えることによって、はじめて工場の計画的・効率的運営が成り立つのである。もちろんこれは大量同一生産・類似設計などの計画性を持って運営されるわけであるから、コスト低減に役立つ。しかし代わりに、車両の償却期限を確定させなければ、計画的工場運営は成り立たない。
-------------引用 http://www.ejr-niitsu.jp/
209系通勤型電車は、JR東日本が会社発足当初から、革新的な通勤電車を目指して開発に取り組み、重量半分、価格半分をコンセプトに完成させた電車です。
-------------終了
とあるが、償却年限と廃車時期まで算段に入れた結果の、工場生産能力及び人員・設備配置なのである。209系のコンセプトはここにも反映しているのだろう。
-------------引用 http://www.ejr-niitsu.jp/
私たちは電車づくりを通して鉄道の新しい価値を創造していきます!
JR東日本は、 総合生活サービス企業として鉄道事業を軸に、これまでの技術の蓄積を十分に活かし、先端技術を集積させ新たな付加価値を創造していくことにより、 安全性、 利便性、技術先進性、快適性、効率性において「世界一の鉄道システム」の構築を目指しています。
------------終了
コンセプトがここまで末端部まで統制されていれば、工場としての経営、ひいてはJR東日本内部での新津車両工場の存在位置が明確になったものと考える。また1日1両という生産システムも明確かつ綺麗である。ここまで算盤づくで考えたということを考えると、山下氏の存在意義はきわめて高い物と考える。願わくは、これをもって競合入札などの際の不平等が無いことを願うばかりである。
------------
さて、断らなければならないのは、この方法が全ての最善の答えであるとはいえないのである。
過去に自分の会社や、自社の系列会社で実質的に鉄道車両を製造してきた会社はかなりある。
(例)
西武鉄道・・・西武鉄道所沢車両工場(撤退)
阪神電気鉄道・・武庫川車両(整備に特化)
阪急電気鉄道・・アルナ工機(阪急・東武向け製造は撤退。路面電車に特化)
京成電鉄・・・大栄車両(メインではなかった・更新工事に特化)

従って、JR東日本はこの時流とは反対のことを行っているのだが、それに見合う勝算があってのことと推測する。この撤退の関係は、溶接技術の複雑化・強度保障技術の向上に伴う、開発投資の是非であるとか、設計単価の下落、CAEなどによる事前技術検討内容の深化など、複雑な内容が絡んでくる。(阪神・阪急については神戸・淡路大震災の影響も大きいと考える。)そこまで踏んでの大博打である。
調べるに従い、技術マネージメントの深さを思い知らされる事項である。

|

« 猫さんおかえり | トップページ | リバースエンジニアリング(1) »

コメント

新津車輌製作所が、メーカーである東急車輌製造㈱の全面的な技術供与のもとに開設され、これは公表されてはいないが恐らく現在でも設計の大部分を同社に依存していることも、考慮しておく必要がありますね。
大口の需要家と納入業者の力関係、ちょっと想像がつくような気もしますが…。

投稿: TX650 | 2006年10月17日 (火曜日) 13時05分

>東急車輌製造㈱の全面的な技術供与のもとに開設され

これはいくつかの文献・資料にでておりました。実名出していいか一寸迷ったもので。

投稿: デハボ1000 | 2006年10月17日 (火曜日) 16時11分

モハ209/208-3101(新造車)は川重オリジナル設計(209系基本番代の川重車と同じ)であり、東急/新津のものとは外観意匠こそ同じですが全く別設計です。(編成相手のりんかい線から譲受したクハが川重製なので機能上揃えたのでしょう。)
E217系やE231系近郊型など幅広車でも、川重製と東急/新津製の基本構造の違いは同様のようです。
新津車輌製作所についての詳しい紹介が「鉄道ピクトリアル」2003年6月号にあり、設計体制についても記されていますので、もしご覧になっていなければご一読をお勧めします。この行間を読むと、設計力のおおよその水準が推測できそうです。
(管理者注:なるほど、それはいいことを聞きました。近日中に図書館にいきますので、見てきます。本文の修正をしました)

投稿: TX650 | 2006年10月17日 (火曜日) 16時51分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/100146/12314836

この記事へのトラックバック一覧です: E233系の生産体制を検証する:

« 猫さんおかえり | トップページ | リバースエンジニアリング(1) »