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ディスコ「トゥーリア」事件(2)

(承前)
一体、設計者はどのような設計を行ったのか。検証は如何にして行ったのか。そしてこのような故障・事故が生じたのはなぜか、これを後段で述べ、安全工学(信頼性工学)面と技術者倫理面、そしてその後に残る悲劇を考えたい。

[設計追認をしてわかったこと(1)]
破損の箇所であるがモーター-Vプーリの間には回転伝達用のVベルトが3本あり、ヘリカルギアで減速・高トルク化してスプロケットにつながり、チェーン1本でドラム側のスプロケットに結合していることがわかる。また、モーターは正転・逆転を双方行っているから、結線を変更して回転方向を制御していたか、インバータで同じ事(逆転作動)をしていたかもしれない。また新聞報道では、停止保持機構がなさそうであるが、これはモーターを市販の「ブレーキモータ」にして停止のとき位置の保持をしていたと思われる。
さて、このチェーンが破断していた。
1本のチェーンの破断によってドラムが巻き上がっていたところに逆転がおき、全くの無制御のままドラムが、それまでと逆回転し、自由落下と同じ状態で照明器具が落下していった。ここで1つ目の防護策となるワイヤーの長さであるが、これを最大に長くしても床まで2Mを確保し安全とする考え方・・・これが営業受託者としての安全認識であったと思われる。しかし「設計者は」ここでミスをしている。1.6トンの自重の重さのものを自由落下で落としたとき一時的にどれだけの張力がワイヤー・ワイヤーとドラムの接合部、ワイヤーと照明器具の接合部にかかるかというところで、確認をしていなかった事が容易に想像がつく。第一均等に荷重が掛かると考えないほうがいい。設計者の常としてついぞ間違えやすいのは、㎏とKgfの間違いである。自由にぶらりとこの照明器具をつるした場合(重さ)に対して、事実上自由落下を起こした場合の「」は9.806倍となるわけである。(雑駁に表現したわけで、詳しくは各自考えてみてください)

[設計追認をしてわかったこと(2)]
以上の様な計算をした場合、チェーンに掛かる力も変わっていくことになる。常時吊り上げていた場合のチェーンに掛かる静荷重がスプロケット同士の間に掛かっていたとすると荷重計算としては、かなりきつい状態で運転しなければならなかったことになる。(読売新聞 1988/1/8夕刊)によればこのような吊り上げを行っている場合の荷重を概算し、速度を考えた場合の、この機械に使われたチェーンに対する安全係数は
1.0
であったと報じている。追認することは出来なかったが、事実だとすると完全に荷重計算の間違いか、選択している安全率の認識不足である。それよりも問題はチェーンをなぜ1本掛けにしたのかである。この場合チェーンが切れると全部落っこちる(但し最終的な安全は保たれる・・・と考えていた)というなら、冗長ではあるが2重系にするというのも考え方である。つまり同じチェーン+スプロケットを2組掛けることである。但し設置業者全体がどうもチェーンというものの伸び・破損を中間検査で認識していたかは疑問である。
最後に、これは仮定となるが、大元のモータが「ブレーキつきモータ」であったと考え、そこで制御が働いていたとしよう。しかしそれが人体に近接するところに対して一番遠くにある。間にプーリー・ベルト・チェーン・ドラム・ワイヤーが完全な状態であることを「仮定」しただけである。だから、各々確動する割合を今仮に0.99とすると0.99^4=0.96となるわけで、安全率としては低い方に走ってしまうし、せっかくつけたブレーキもファイナル・ゲート(最後の砦)となりえないことがある。人体に接するものとして一番近いのは、ロ型の照明装置であるからこれを支承する様に安全装置を設置することである。設計者はそれを、ワイヤーであると考えたのだろう。なおこういうこともあってか、最終的なブレーキとしてブレーキ附きモータのブレーキを見做さないでほしいとかいたものを見たことがある。
また昇降回数によっての制限も入ってくる。ブレーキライニングの保守とかの間隔も設定されなければならない。

[設計追認をしてわかったこと(3)]
設計上、使用側としても通常1日4回この照明を昇降することにしていた。しかし現場では15~20回/日駆動させていたという話。ところが常連の中には1時間につき10~20回(つまり1日160回とみなせるか)昇降を行っていたという声がある。(朝日新聞1988/1/7)これが事実とすると半年営業を行った場合、最大28800回の衝撃荷重+常時の引っ張り荷重がチェーンにきていたといえる。一般的には疲労源とは見做されない回数であるが、上の項目を見ると1日4回=720回とは桁数が違う。
つまり使用者(営業者)と設計者の意図がずれて設計されていたというか、そのような話し合いが行われず来た事を物語っているのである。もちろん、竣工の時は設計者はそれなりに計算書・設計図書を作っている「はず」、または取り扱い説明書を作っているはずなのであるからお互いに確認しなければならなかったのに、それをしなかった。

ここまで考えてきたように、この事故は複合要因を抱えている。
(1)他社のコピー品を作っていた(設計詳細までコピーしていたかは疑問だけに問題となる)
(2)応力計算をきっちりせず、またそれをどのセクションも正しいか確認していなかった(検図確認を行わなかったのか)。
(3)会社には、品質保証部門があるはずである(とはいえこれを作った会社にそのようなセクションがあるかは不明)その客観的な目を通さなかったのか。
(4)製造会社-照明元請会社-運営会社というように子供・孫の関係になっていて設計者と使用者との意見交換もされない状態ではなかったか。または設計図書・取説をつくらなかったり、読まれてい無かったり、ひどい場合は元請のところで埃をかぶっていなかったか。
(4)単品設計物であるからこそ、メンテナンスマニュアルが必要であるが、(まあ普通は考えないのも知れないが)チェーンの緩み・伸び・潤滑の確認をしていたか。そうすると間に起きた点検や、自主点検はどのように行うべきと設計者は指導したのか。「異常無し」という報告はどういう理由を典拠にされたのか。
感覚的な言い方をすると、プーリーから3本のベルトでかませたものを、ギア減速かけたとはいえチェーンを1本掛けで用いるのは、なんとなくバランスの悪い設計である。(ギアモータにチェーン駆動というのはそこまで突飛な発想ではない)
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そこで、皆さんに考えてほしい。
(1)こういう設計をしてしまった場合、品質保証部門が体を張ってとめるべきであるが、欠陥品が流出し、その問題点が抽出されなかったとしよう。
・設計者と設計者の上司(設計責任者)
・品質保証責任者
・メンテナンス技術者
・元請の照明器具会社の取りまとめ責任者
・ディスコ運営会社の責任者
・空間プロジューサー(この場合は施工責任者というもののある)
各々の見るべき視点と、そのために危険防止のためのホイッスルを吹くべき人はだれで、どのようにその理由を訴えていかなければならないかを考えてみてほしい。
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(2)ファイナルセーフティーとしてワイヤーの長さを調節していることは、使用者に対しての保安装置を多少でも意識していたということで評価はしたい。しかしこれが効かなかったのがこの事故。
設計思想として疑問となるのは何か。
(例1)本当に、昇降する照明に1.8tの重さが必要か。鉄製だという、また表面はわざと意匠を重視して荒らしてある。工作法を簡単にしようとして、重量軽減を考えなかったのか。
(例2)たとえばロ型の照明の4隅の下のほうに偽木・・のような2M以上の鉄柱を4本立てておいて、閉店時にはその上にのせてしまう・・・のと同時に全部の安全装置が効かなかった場合に最後のとりでとして衝突用に使う。
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後者の場合、それが何の原因で、どういうことを防止するかということもあります。そこで論理を立てて訴求し、施工管理者・運営業者・空間プロジュース業の人に理解してもらい、相違点を見出し次につなげるかが重要です。ことこういうことになると「おたくでシャイな技術者では困るんです。自分に自信をもっていかなければなりません。(過度の自信も問題ですが
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最後に、すこし。
この事故で無くなった方・負傷した方の大部分は、本来なら入店抑止すべき17歳でした(氏名が載っている新聞もあります。黒服(従業員)がチェックしてもしきれなかったようです。
----引用
この事件で六本木ディスコ族の実態が明るみに出た。死亡した3人はみな地方から遊びにきていたり、勉強しにきていた人であった。そこに居合わせた人たちもほとんどが東京以外の人たちだったのである。そういえば'86年から'87年にかけて六本木周辺で徘徊する車に東京近県のナンバーが目立ち始め、果ては東北、東海からも軽のミラ・ターボなんかで六本木のディスコに乗りつけるなんて言う現象が頻発していたのである。もちろんワンレン+ボディコン姿で。つまり純正ボディコンはすでにその頃六本木を敬遠し始めていたのだ。
管理者注:この意見自体はかなり偏向的ですが、あえてのせました
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またこのことが誘引になって、ディスコは六本木から湾岸のほうに引っ越していくことになるクラブと名を変えて。
もちろん、負傷者にもまだいろんな問題が残っているのは言うまでもない。
-------------引用
新潟地裁も「違憲」 学生無年金訴訟 国に1400万円支払い命令(産経新聞) - 10月28日15時32分

 成人後の学生時代に重い障害を負った男性二人が、当時任意制だった国民年金に加入していなかったことを理由に障害基礎年金を支給しないのは法の下の平等を定めた憲法に違反するなどとして、国に対し、不支給処分の取り消しと計四千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十八日、新潟地裁であった。犬飼真二裁判長は「社会的身分による著しく不合理な差別 で、憲法違反は明白」と違憲判断を示し、国に計千四百万円の支払いを命じた。
 「学生無年金訴訟」は、この訴訟を含め計三十人が九地裁に提訴。判決は今年三月、「国は是正措置をとらず違憲」とした東京地裁に続き二例目となる。新潟地裁も同様の判断を示したことで、国は全国に約四千人いるとみられる同種障害者の早期救済を迫られることになりそうだ。
 原告は、新潟市のAさん(四一)と、新潟県三条市のBさん(三七)。Aさんは昭和六十二年に海での事故で、Bさんは六十三年に東京・六本木のディスコ「トゥーリア」の事故で、それぞれ重度の障害を負った。
 犬飼裁判長は判決理由で、昭和六十年の国民年金法改正の際、二十歳以上の学生を強制加入の対象から除外したまま放置した点について「著しく不合理な差別 」と認定。「国家賠償法上、違反のそしりを免れない」と厳しく批判した。
 ■学生無年金障害者 平成3年に改正国民年金法が施行される以前、20歳以上の学生の年金加入が任意だった時代に、年金に入っていなかったことを理由に、障害を負っても年額79-99万円の障害基礎年金の支給が受けられない人。全国に約4000人いるとみられる。20歳未満で障害を負った人には年金が支給されており「制度のはざま」と指摘されている。
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更に、1988という年は日本はバブル真っ最中の時期だったが、その後海外の事例をみるとこんなのがあった。
2000/12/31 (日)02:00頃
大韓民国.ソウル.江北 ディスコ「エンパイア」で天井から重さ約2トンの照明装置が落下.飛び散ったガラス片などで踊っていた客ら負傷  負傷者62名
1995/4/28 (金) : 夜 中華人民共和国.北京 ディスコ「JJ」で照明装置落下 負傷者 なし
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設計の信頼性を高めたりする場合の問題解析ツールとしては 故障解析法(FMEA・FTA)ワイフル確率紙、PDCAの推進など色々ある。けど精神論に悪戯に加担するわけではないが、なによりも、失敗を糧にして未来に生かすという姿勢を常にもつ事が大事ではないか。そのために設計者は、常日頃から製造現場・設置現場を嘗め尽くすように見るのが本道ではないかと思う。・・・・と技術者の端くれである私は考える。

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