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ボールペンの先と樹脂の相性

先日、ある人から、こんな質問を受けた。
ボールペンで樹脂ブロックの上に字を書くと凹みが出来たりする場合あるわね。凹まないとしてもインクがでないこともありますね。そういった場合の、樹脂の選定の考え方とか、評価手段てのはないですかー。」
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ボールペンの先はそれこそ微小な硬球・それを保持するかしめて造った保持器になるわけで、原理的には、玉軸受に用いるボールと相手材料との応力の関係になる。ただし幾何的には点接触になる場合であるため、集中荷重の考え方になってしまい、実際的ではない。そこでヘルツ応力の概念を用いるのが妥当であるし、この理論はベアリングで十分実績があるといえる。そこで某社のベアリング技術資料を持ち出し、潤滑剤をボールペンのインクに仮定して(というか無潤滑に近いものとして)一応理論的な説明と(一部仮定条件を導入して)、実績値を挿入して安全率導入で納得してもらった。まあこれは一件落着。
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さて、機械要素としていまや産業の「米」である軸受については、その内部機構については、応力的理論に加え、材料理論、はめあいなどによるがたの影響の実績、潤滑(グリースなどの成分的考察も含む)、温度パラメータの影響、シール、磨耗、音響、機械損失など、本当に基本的な技術内容が詰まっており、メーカーはそれを相互に解決し、量産に落とし込みながら製品を全世界に展開しているわけである。もちろん日々の改良とともに、エンジニアリング樹脂やエラストマーなどの流用による製品開発は進んでいる。
当然、組み込んだ新製品を用いるときベアリングの荷重・がたなどは種々に波及するのでかならず検討するわけでそのための資料は、結構どこでも蓄積していると考える。
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そこで、いろんなメーカーがこれに関する技術資料を出している。設計転用の考え方はカタログなどにも少しは載っている。(余談だが、たとえば某社の新入社員の入社試験は「英文カタログのはじめの技術概説を、時間内に英文和訳(辞書持込)してもらい、それを採点して(というか答えは、彼らの国内向けカタログにすでにある訳)決定する。」ということでした。)
その反面、企業技術の秘匿という面もあり、配布用技術資料はメーカーによって、基礎技術資料という形を重視する場合と事故解析を主眼として資料を作っている場合もあり、検討内容によっては各社の資料を横にらみしなければならない。会社によっては営業技術用のハンドブックを技術営業が持っているが、シリアルNoを取っており、転勤したり、会社を辞めるときには返さなければならないという話もあると聞いた。事実その本は表紙に「取り扱い注意(秘)」とでっかくかいてあった。
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国内の主なメーカーでは、いずれにせよ、技術営業用のハンドブックなり、技術概説書を配ったりして、いろいろサポートしてくれる。
主な会社としては、
日本精工(NSK)
NTN
光洋精工改めジェイテクト(1月に豊田工機と合併した・・ブランドはKoyoのままみたいだな?)
日本トムソン(IKO)
NACHIで知られる不二越
というところが有力で、力もあり、実績豊富である。
いろいろこういう資料を折を見つけもらっておくと、いざというとき問題解決・隘路の脱却に役立つということを散々経験した。資料は結構もらえますから各社に相談されたらよいようですよ。
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確かに、この資料集は有力である。しかし、その技術的典拠まで遡らなければならないこともある。私は若いとき超高速の軸受構造を検討していたので、そのときは、専門家・技術営業にあったら、かたっぱしからいろんな人に聞きまくった。
この中に、ベアリングの設計をしていた営業技術の人がおり、曰く「私はドイツ語の「エッシュマン」といわれる文献を輪読して結構力をつけました。」という話。確かに力のある人だった。この当時若輩の私でも名前は知っており、この文言を頼りに、本屋に探してもらったのだが、(当時はインターネット購買もない時期)八方聞きまくったものの、
ドイツ語版は改訂中で絶版
日本語翻訳はなし
英語版も絶版になったばかり

仕方がないので、別の文献流用とあわせ、細々と簡単な要素試験を試みたのだが、ばらつきとかあって、有意なデータが構築できずなかなか苦労することが多かった。
意を決して翌年再度調べてもらったら、
ドイツ語版は改訂終了 3版が出たばかり
日本語翻訳が最新版で出ました
英語版はぼちぼちでるようです。

早速、会社の費用申請をして、日本語版を買ってもらった。いやあ、よく使った。一部の見識の高い人物からは「いい本見つけたね。だれだ見つけたのは!」とお褒めの言葉ももらい、また「そんな資料があるなら、こんな件でなにか参考になることなあい。」という相談も設計部門からもらったりして、その意味では「いい本と出会えるということは、仕事に励みになるものだ」と「感動した」(by 小泉純一郎)記憶は鮮やかである。
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さて、仕事が変わり、本は元いた事業所においておくことになった。当然の行動である。そのあと会社も変わりという経験を得て自分の事務所で仕事をすることになり、そこで、やっぱりこの本が必要だなということを少し感じていた。そんなところに筆頭の一件である。図書館にある本でもないようだし(除く国会図書館)、やっぱり買うか。幸いアマゾンやNIFTY・BOOKSというのが使えるからというわけで検索してみたのだが・・・・アマゾンではなし、NIFTYのほうで取扱不能となっている。
仕方がない・・・といって収まる話でもない。わかった出版元にメールで問い合わせしたところ。「絶版になりまして、当面再版計画がないのです。」という話。こうなったら国会図書館で566PAGEぜんぶコピーに走るか・・・と考えていたら、3日後出版社から再度メールが来まして、「倉庫に1冊だけ残ってることがわかりました。棚ずれもしてません。ご連絡お待ちしてます。
こうなったら、まってられず速攻で入手。なつかしの「エッシュマン」(筆者の一人の名前・故人)、すなわち転がり軸受実用ハンドブック 吉武 立雄訳 工業調査会刊 ISBN4-7693-2129-5 税込6,300円である。今、机上にある。うふふのふ。もちろん、活用するのもしないのも俺次第というと、責任重大だなんという気負いも感じる。もともとこの本はドイツFAG社の技術検討内容を大幅に増補改訂したものなので、本当の「基本書」なのである。
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産業というのは非情なもので、門真市の京阪本線線路端にある、鋼球類を造る専門メーカ-は産業再生法の支援を受けてた(ボールペンの鋼球もここの製品だそうな)が、今回一部株主への株の交換などによって、某社の完全子会社になるらしい。確かに新聞の株欄では管理ポスト入りしていた。機械要素の技術を支えていくのは大変だが、実は本当に「米」クラスの必要性があるんです。

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コメント

ほしい本が最近は品切れらしくて、
次のターゲットはこれだったのだが・・・
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固体の摩擦と潤滑
F.P. バウンデン (著), D. テイバー (著), F.P. Bowden (原著), D. Tabor (原著), 曽田 範宗 (翻訳)
価格: ¥4,725 (税込)
現在、在庫切れです。このページは在庫状況に応じて更新されますので、購入をお考えの方は定期的にご覧ください。
レビュー
内容(「BOOK」データベースより)
本書は固体、とくに金属がすべり合う場合におこる物理的過程および若干の化学的過程に関する実験的研究と、同時に摩擦と境界潤滑の機構に関する研究について記述したものである。
1 固体間の接触面積
2 固体の摩擦面温度
3 表面流動に対する摩擦熱の影響
4 金属すべり面の摩擦と表面の損傷
5 金属の摩擦機構
6 軸受合金の作用
7 清浄面の摩擦:よごれ膜の影響
8 非金属材料の摩擦
9 金属潤滑面の境界摩擦
10 境界潤滑の機構
11 極圧潤滑剤の作用
12 潤滑膜の破断
13 衝突する固体間の接触の性質
14 金属摩耗の性質
15 固体表面の凝着と液体膜の影響
16 摩擦および衝撃によっておこる化学反応
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投稿: デハボ1000 | 2006年2月13日 (月曜日) 01時55分

日立金属(株)冶金研究所が境界潤滑の原理を解明。

https://www.researchgate.net/profile/Kunichika_Kubota/publication/296699696_Low_friction_loss_can_be_realized_by_high_strength_self-lubricating_alloy/links/56d9177108aee1aa5f8035b0.pdf?inViewer=0&pdfJsDownload=0&origin=publication_detail

投稿: 低フリクション | 2016年10月10日 (月曜日) 22時28分

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